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□あなたに会いに来ました
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いつも通りの1日だった。一限は遅刻気味で、つまらない講義を聞き流し、学食で旨くもないカレーを食い、また役に立つのか立たないのか微妙な講義で惰眠を貪り、やる気のないサークルに顔を出すだけ出して帰ってきて、パソコンの電源を入れるまでは。

立ち上がる間に何か飲むかと、キッチンに行って冷蔵庫から1.5ペットボトルを取り出しそのまま口を付け、ついでに夕飯どうすっかなーと、冷蔵庫を物色し、卵のタイムリミットが迫っているから、オムライスでいいかなー、とりあえず米研いで炊飯器にセットし、一息つこうと部屋に戻ると…絶句するしかない光景が繰り広げられていた。

首のない人間の体が部屋の中心でバタついていたのだ。

絶叫しなかった自分を誉めてあげたい。
なんだあれ、心霊現象か!?それにしては恐怖を感じないのだが。なんか、服を脱ごうとしたらボタンを外し忘れて首が引っ掛かってしまったけど、それを無理矢理引き抜こうとしているような動きで…。まるでギャグだ。

ただ唖然と部屋の入口で立ち尽くしていると、スポンッと音が聞こえそうな勢いで、男の顔が現れた。

「あそこで詰まるなんてあり得ないよ〜、首抜けるかと思った〜。」

男の間の抜けたような声が聞こえてきた。本当に、首が引っ掛かっていたようだ、見えない何かに。
アレだ、首と同時に現れた長ったらしい青い布が原因だ。あんな邪魔くさい物を首に巻いていれば、そりゃ見えない何かにだって詰まるさ。つか…

「何者だ、お前」

やっと声が出た。謎の物体αの気の抜けた声で、俺の緊張も少し抜けたようだ。現れた首も髪は青いが普通の人間だったことにも安心した。あれが、血みどろだったり、口が裂けていたら腰を抜かしていたかもしれない。

物体αは、声をかけられて初めて俺の存在に気づいたようで、慌てたように顔を上げた。青い瞳が印象的な整った顔立ち。今時は怪奇現象までイケメンなのか。ブームって恐い。

その青い瞳に俺の姿を映すとニッコリと微笑んだ。

「初めましてマスター!オレ、Kaitoっていいます。」

うん、わかった。
コイツ電波だ。初対面の人間に“マスター”とかあり得ない。関わらない方がいい。俺のその後の行動計画は0.1秒で決定した。

つかつかと部屋に入り、物体αのマフラーらしきものをわしづかみすると、部屋から引きずり出した。

「え、ちょ、おまっ、マスタぁー!?絞まるっ!!ギブギブ!!」

物体αが騒ぎ立てるが気にしない。大して広くもない独り暮らしの部屋だ。玄関には5歩で着く。
掴んだ布をもう一度ぐっと引っ張り俺の前に立たせる。“ぐぇっ“と蛙の潰れたような声がしたが、まぁ大丈夫だろう。首は取り外し?出来るようだし。
物体αの背中を押し玄関の土間に押し出した。靴は履いているから問題ないだろう。っていうか、人の家に土足で上がるとは失礼な奴だな。

「玄関はそちらです。どうぞお引き取り下さい。」

冷たく言い放つと、物体αは泣きそうな顔をして振り返った。

「え、ちょ、ひどっ!!」

酷いのはお前だ。俺は物体αの背中をグイグイ押しながら、ドアノブをひねって戸を開け放ち、そいつを押し出そうとした…が、奴は抵抗をして、外に押し出されないように、手足を広げドアの枠を掴み突っ張ってきた。

「出ていけ!」
「ダメです!!」
「出ていけ!!」
「嫌です!!」
「出ていけ!!!」
「無理ですぅ〜!!」

ガタッ!!
奴の情けない悲鳴以外にも、何か物音がして我に返った。

押し出すことに必死になりすぎて失念していた。

扉の先は公共の場。
誰が通るかわからない…。
物音がした方に首に伸ばすと、女の人が怯えた顔をして立っているのが見えた。

あちゃ〜、同じ階に住んでる人かな…。

「すみません、お通り下さい…」

俺はいたたまれなくなって、玄関の扉を閉めた。
通りすぎる時、怯えながらも軽く会釈してくれた。いい人だ(涙)初めて見たけど綺麗な人だったな。OLさんかな。
どっちにしろ、もう会わす顔もない。男同士の痴話喧嘩と思われていたら嫌だな。俺は決して変な人ではないですよ。大家さんに通報されないといいけど。

俺が感情に浸っている隙に、物体αは素早くドアに鍵をかけ、俺の横をすり抜けると、勝手に部屋に戻ってしまった。
そして、仁王立ちになり涙目ながらに訴えてきた。

「マスター!追い出すなんて酷いです!話聞いてください!」

そんなデカい声で叫んだら、ご近所さんに迷惑ですから…。
もうやめて、俺の戦意は0よ…。

俺も涙目になりながら、部屋に戻った。
もういい。どうにでもなれ。
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