Allen's dreaming(羊申)

□解放なんてしてあげない
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 たった少しのミス。ただそれだけだった。

「はぁ、はぁ…」

 どくどくと体中から液体が流れ出ていく。体中のあちこちが痛い。
息がやけに五月蠅いし、色んなところが熱かったり寒かったりする。
力が尽きている様で、もう地面に転がるしか私はできない。
ああ、任務しくったな。あのアクマ、死ね!や、もう殺ったけどさ。とか、どこか冷静に見ている自分がいる。
ぼんやりと、だんだん眠くなってきた。
このイザナいを、私は知っている。これは、死への眠りだ。
ここまでなんだ、と第三者の私が言う。
ぐるぐる今までが思い出されて、けどその一生を描いた長編映画に対する感想は、あっけなかったな、というそっけないものだった。
そして、その映画のあちらこちらに白いものが必ず入っていることに笑えてきた。
アレン。アレンだ。私結局あなたしか考えてなかったみたい、と自嘲の笑みに変わる。
うとうと目を閉じかけると、聞きなれた声がぼおっと聞こえた。

「〓(私の名前だ)〓!!」

 アレン。

 まぶたに力が入らなくて、視界はぼんやりと薄れている。
それでも求めるように差し出した手に、はっきりとした人間の手の感触が触れてきた。
ざらざらとして、ごつごつしてて、ちょっと硬い、アレンの左手だ。
発動してないとこを見ると、アクマ全部破壊できたんだね。良かった、なんてどうでもいい事に考えがつく。
ぎゅっと縋るようにアレンの手を握ると、ぬるりと私の血に濡れた。
何か必死に呼びかけてる。もう声すら遠くに聴こえてしまう。
ただひらすらに眠いのよ。
アレンに今優しく抱きしめられているところが、ひどく心地がいい。
今の私の目には光しか感じられないけど、でも君の姿がくっきり思えるわ。
怒鳴り声が子守唄に感じられ、流れ出る血液が川のせせらぎに聴こえ、君の体温が羽毛布団に思えてきた。
アレン、ここでおやすみなのね。
 どうして?視界が急に滲んできた。
 頬に流れる熱く思える液体は、そこに血が流れているからかしら。
もう私は諦めている。
せめて別れ際は綺麗にと、お別れの言葉を考える。ろくに考えはまとまらないけど。

 アレン、あとは任せたよ。
 アレン、一足さきにいってるよ。
 アレン、ばいばい。
 アレン、…………

 ごめんね。ごめんね。ごめんね。
 きっと君は後悔するんだろうなあ、傷つくんだろうなあ、悲しむんだろうなあ。
でもここで第三者の自分が声をかけてきた。
けどその理由は全部私だから、ある意味私の特権だよね。
自分のためだけの涙。なんと気味の良いことか。
やっぱりこんなときの頭ってろくなこと考えない。自嘲する気も起きやしないけど。
そしてまた、第三者の私が言う。
だけど、その特権も、もうお終い。
もうアレンは、私だけのアレンじゃなくなるもの。
アレンは前に進んでしまう人だから、きっといつかは私のことを忘れて、そして素敵な人と出会うだろう。

 ちらりと芽生えたのは、悪魔の考えだ。
アレンの優しさを利用した、最低で下劣な考えだ。

「あ、あれ、ん…」

 ひゅーひゅーと呼吸がおかしい。もうそろそろタイムリミットだ。
でもそれでいい。たった少し時間があれば、それだけで十分だ。
たった一言二言、アレンに言えば、もうそれでアレンはずっと私のもの。
誰かになんて、渡しやしない。
アレンがこちらを向く気配を感じる。

「もっと、もっと……、……アレンと、生きて、いたかった、な…」

 これは本音だ。言ってはいけない本音だ。
はっと息をのむ気配。もう他の感覚はしない。
けれど不思議なことに、アレンのことは感じるのだ。アレンだけしか感じないのだ。
あとは最後の仕上げ、悪魔の一言だ。
きっと君は優しいから、この愛という名の呪い、受け取ってくれるんでしょう?

「………、わたしを、わすれない、で…ね」

 一生私を忘れるな。一生私を思い続けろ。
優しい君には、効果抜群。君ならきっとこんな悪魔みたいな私、救済してくれるんでしょう?
ずっとずっと、その心を私に独占させて。
全部とは言えないから、一部分だけでも私を住まわせて。

 ごめんね。

 最後は呟けたか紡げたかの言葉となった。
リミットオーバー。ゆっくり私は目を瞑る。
君の腕の中で、私は眠るように死んでやるのだ。

 もう後は真っ暗闇のはずなのに。

 白く君の姿が、目に焼き付いて、視えるわ。

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