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□美しき虚像
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「調子はいかがかな?」

「………」


魔界。

魔族蔓延る私の城の一角に設けた美しい牢獄。
その中に、悲しく美しいその人がいる。


「ピッコロ様」


元・地球の神で大魔王。
まるで正反対の肩書も、今や見る影もない程にその美しい人は弱っているようだった。

「ピッコロ様」
「……様をつけるな。ピッコロでいい」

もう神などではない。と美しい人は顔を上げた。

閉じ込めて何日にもなるというのに少しも変わらない鋭い眼差し。
強い意志を秘めたその瞳に吸い寄せられる。


「では、ピッコロ。その手をどうしたのだ」
「………」
「また、逃げようとしたのだな?」

菫に染まった手元に舌を打つ。
それに方を跳ねさせたピッコロに苦笑して、魔術で施した鍵を開けた。


「来るなッ!!」
「手を見せなさい」
「ーーーッ!やめ…ろ…ッ!!」

逃げようとする腕を掴んで、引き寄せる。
それによってハラリとシーツが落ち、美しい翡翠色の肢体が露になった。

「嫌だ!!」
「大人しくしなさい」
「ーーーッ!?」

慌てて暴れようとした体を横抱きにする。
きつく肩を掴んで体を押さえると、ビクリと体が震えた。

「や、め…」
「……こんなに、血を流して…」
「………え?」

今だ止まらない菫の血を流す指に触れ、魔術で治療を施す。
魔術で傷口はみるみる塞がり、ついには消えて見えなくなった。


「…ダーブラ?」
「この世界ではピッコロの再生能力は発揮できないと何度言えばわかる?もっと自分を大切にしなさい」
「………」

私の言葉に俯いたピッコロに苦笑する。
ぼんやりと自分の手を見下ろすピッコロを解放して、爪痕が残された牢の壁を見遣る。
爪痕周辺にも菫の血がべっとりと付着していた。
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