SDGF・短編T

□ある日の休日
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「そんなもん平気で捧げられるお前の神経に心底感心させられるな」

 そして、リリジマーナはそれを笑顔で受け取っていそうだ。

 トールギスはディードと向かい合うようにして椅子に座り、チェスを始める。
先攻はディードの推薦により、トールギスから。

「そういえば、あれほどリリ姫に執着していたお前が、最近は丸くなったな」

「そうですか? ええ、まあ、あの時より比べたら、確かに丸くなったかもしれませんね」

「お前に限って諦めた、などという訳では無いだろう」

「当たり前でしょう? 私の伴侶は後にも先にもリリだけです。
リリ一筋です。女官など眼中外です。リリ以外に素晴らしい女性などこの世にいるはずがありません」

「そこまで断言できるお前を見ていると、たまにゼロより痛いと思うのは気のせいか?」

「ゼロより“勇ましい”の間違いではありませんか?」

「“勇ましい”というより、やましい念の塊だろうが、お前は」

「失礼ですねェ、トールギスは」
 やれやれ、と首を竦めて軽くかぶりを振るディード。
トールギスは本当に痛み出した頭を片手で覆いながら、溜息を一つ吐く。


「ところで、いつまでその口調でいるつもりだ、デスサイズ――いや、ディード」

 唐突に投げかけた言葉の意味を理解しているくせに、白々しく首を傾げるディード。

「前の一件でお前の化けの皮は分かった。
いい加減、その仮面も剥いで本性を見せろ。
道化を続けたところで、俺はもうお前の掌で躍らせるほど愚かではない」


 いつにもなく真剣な声音で言うと、ディードの表情に冷酷さが宿る。
愛想のいい笑みの代わりに氷のような冷たさが宿った笑みが宿る。


「もう一度煽らせて反乱を起こさせようとしたが、やはり無理だったか」

 慇懃な態度など微塵もなく、仮面を剥いだディードの本性が曝け出された。
『氷刃』という肩書きが相応しいほどに、触れたものを凍てつかせるような冷酷さが漂う。

「安心しろ。その気があれば反乱などいつでも起こす」

「おやおや、また随分な発言を……そんなこと、城内で――ましてや人前で言っていいのか?」

「お前が密告するような性格か?」

「そんなねちっこい事、する訳ないだろ。ゼロじゃあるまいし。
――まあ、リリに害が及ぶ場合は遠慮なく阻止させてもらうが……」

「二言目にはリリ、リリと……本当に諦めが悪いな」

「素晴らしい愛だろ?」

「素晴らしいを通り越して痛い愛だと、いい加減自覚したらどうだ?
ただリリ姫を手に入れるために仲間達どころか、国そのものをダークアクシズに売っただろう」

「お前も自分の心を魅了させるような姫君が現われたら私と同じことをするだろう。
いや、――王になりたい分、私より性質が悪いか」

「お前がリリ姫を諦めていないのと同じく、
俺もラクロアの――この世界の王になることに関してはまだ諦めていないからな」

「国王はそれを知っていながら、我々を生かした……。
正直、一番逆らっていけないのはあの親子ではないかと思うな」

「王はどうであれ、リリ姫は十分あり得るだろう。
大抵、笑顔の裏には必ずといっていいほど、ドス黒いオーラが漂っているんだからな」





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