SDGF・長編 ブック


□序章
1ページ/4ページ







00 ‐ Prologue




 荒れ果てた大地に吹く乾いた風が黒いコートの裾を靡かせる。
ひび割れ、大きく裂かれた大地に咲き乱れるは、既に生気を失った木々の数々。
人気は、無論無い。

「……はあ……」

 彼は吐息のような溜息を吐き、不気味な色合いをした空に浮かぶ2つの月を仰いだ。

「……これならまだ、『存在しなかった世界』の方が綺麗だったぜ」
 あそこはここまで酷くない、と呟き、ガサと揺れる梢の音を敏感に捉えた。
視界の端で音が発せられた方向を見遣る。

「誰ポーン?」

 機械的な体を持った兵士が顔を覗かせて彼を見る。

 深く被ったフードの下で、彼は口端を大きく吊り上げた。
そこに浮かぶは鷹揚の笑み。

 虚空より呼び出した炎が四方八方に取り付けた刃を備えた円形を象って現われる。
彼の両手に1つずつ握られると、炎は消え、赤いラインが入ったチャクラムが固着される。

 彼は左手に構えたチャクラムを投げた。
それは綺麗な弧を描いて宙を舞い、兵士の体に突き刺さる。
兵士はポーン、と悲鳴に聞こえない声を上げながら白煙となって消えた。
風に乗り白煙が散ると、黒に染まったサイコロが1つコロコロと地面を転がる。

 宙で回転し、戻ってくるチャクラムを片手で受け止めた彼は肩を傷つけないようにかけ、
「あ〜……」とぼやきながら天を仰いだ。

「こんな石だらけの世界で生き残り探せっつってもなァ?」
 絶対いねェって、と愚痴るように呟いた矢先、微弱だが、人の気配が感じられた。
何気なく、そちらに視線を滑らせると、同じ顔をした3人の子供が黒い霧――否、虫の群れに襲われている。
虫の群れは子供たちを囲むように集まると、その体を石化し始める。

「!」

 彼は考えより先に、その足を動かした。
炎を纏ったチャクラムを構え、宙に滑らせる。
空中を回転しながら大気を焦がし切り裂いていくチャクラムは虫の群れを一気に燃やし、散らした。

 子供達は唖然と、自分たちの前に着地する彼を見つめる。

 彼は爪先から席かしている子供達の前で、躊躇うことなくコートの懐から石を取り出した。
透明の外装に包まれた中身は淡い光が結集し、脈動を打ち続けている。煌々と輝く光は子供達に降り注がれ、石化を静かに解かしていく。

「「「あ、ありがとう……」」」

 三つ子からハモッた声と共に謝礼を言い渡され、彼は変な気持ちを抱きながらも「気にするな」と押し留めた。

「ところで、お前ら以外に生き残りはいねェのか?」

 問うと、3人の内中央に立っている少年が首を振った。

「そうか……なら、しょうがねェわな」

 そう言って、彼はコートの懐から豪奢な飾り物が施されている箱を取り出し、石のようなものをその中に治める。
それを少年たちの前に差し出した。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ