短編V
□DEAR
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「この所、調子が悪くないか・・?」
本当にそうだ。
今日まで何度転び、何度書類をバラ撒いたか。
何に対しても完璧にこなすトレラにとってそれはとても歯痒いのである。
「ほ、本当に大丈夫なので・・;」
集まった書類をトントンと床で整理し、トレラは立ち上がる。
苦笑染みた顔でヴァールを見ればヴァールも静かに腰を上げる。
そして有難う御座いました、とヴァールに会釈し、書類を胸にギュッと押し付けながらトレラは歩き出す。
「トレ――・・。」
ヴァールがトレラを呼ぼうとしたが、それを止めた。
トレラの後姿も見れば肩を縮め、少しヒクヒクッと嗚咽の様な声が聞こえてくる。
それを察し、ヴァールは心配そうな顔でただトレラが歩いていくのを見ていた。
――*――*――*――*――*――*――
(――研究室。)
「主任・・・?」
グシッと涙を拭い、トレラは書類をカオ・リン主任に届けようと研究室に入っていく。
するとその部屋の様子にトレラは目を数回瞬かせる。
何時もは大きなワイド画面が数機見えるのに今日は見えない。
大きなコンソールも書類や本の山積みで姿が少ししか伺えない。
そう、先程の大きなワイド画面も書類の山積みで隠れているだけなのだ。
トレラはその様子にはわわ、と言い少し慌てながら辺りを見回して主任を探す。
「主任〜・・何処ですか〜;?」
足の踏み場が少ししかない部屋でトレラは足元を気にしながら主任の名前を呼ぶ。
すると、近場でガサリッと音がした。
トレラはそれに気づき、其処へと近づく。
「主任、ですか・・?」
物音があった場所でトレラは主任であるか、呼んでみる。
「――・・・・主任は寝ている。」
「!」
主任ではない声にトレラは少し驚く。
だが、それも後々考えてみれば分かるはずだった。
カオ・リン主任が今この時コンソールを叩いていたのなら、いつもどおりアチョーだのの声が聞こえるのだから。