短編V
□DEAR
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愛する人へ・・・。
− Dear −
一日がこんなにも遅いと言う実感が湧いたのは久々である。
「・・はぁ〜・・。」
溜息は宙を舞い、パッと消えてしまう。
手にはカオ・リン主任に渡すための書類を抱えて、テコテコと長い廊下をトレラは歩いていた。
その様子は落ち込んでいる感じで。
いつも傍にいる人物、自分の愛しい人は出張してから三日。
トレラはこんな調子なのは今始まったことではない。
三日前からずっとこうなのだ。
一日に必ず一回は愛しい人の顔を見ないと何処かが抜けたような気がしてならないのだ。
だから――。
「Σうわぁっ;!」
仕事だって上手く行かない。
角を曲がろうとした矢先に普通は躓くはずのない場所でトレラは躓き、転んだ。
それと同じように角を曲がろうとしていた者がトレラの存在に気づきその場で止まった。
「うぅ〜・・;」
「・・大丈夫か・・?」
転んだトレラへ手を差し伸べる者はヴァール。
黒い装甲にエメラルドグリーンの無垢な目を少し小さくさせ、トレラを立たせる。
「すいません;・・あ、書類;!」
「ん・・。」
トレラは再びしゃがみ、バラバラになった書類を拾い始める。
それを見てヴァールも一緒に書類を拾い始めるが、トレラのしゅんとした様子にヴァールは気づく。
「・・クァシエか・・?」
「Σ!」
ヴァールが静かに紡いだその名前にトレラは大げさと言わんばかりにビクついた。
拍子に書類がまたバラバラと舞ってしまった。
ヴァールは更に散らばった書類を拾う。
トレラも何処か寂しげな表情で書類を拾い直す。
「・・寂しいか・・?」
「・・い、いえ、そんな事は・・。」