短編V
□歓喜のシンフォニー
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孔雀丸は屋敷の庭にある大きな池の辺にちょこんと座って、
鯉が泳ぐ池に足元から毟り取った雑草を投げていく。
抱えていた膝に顔を埋めて、今にも溢れてしまいそうな涙を抑える。
「師匠は、我なんてどうでもいいんだ……」
覇王丸も、その右腕である将破丸も、爆熱丸が来てからというもの、
爆熱丸に付きっきりだ。
孔雀丸より幼いから、という理由で構っているのは分かっている。
だが、完全には理解しきれていないのだ。
孔雀丸だってまだ心身共に幼い。
大人ぶっているのは、早く覇王丸に恩を報いたいが故に。
『笑って許してやれ』
壊された竹刀が“ただ”の竹刀だったら、覇王丸の言うとおり笑って許してやっただろう。
だが、壊れた竹刀は市に行った時に覇王丸に初めて買ってもらった大切なものだ。
「師匠なんか大嫌いだ……!」
そして、爆熱丸はもっと嫌いだ。
最初は弟が出来たと思って喜んでいたが、
今となっては邪魔物以外の何者でもない。
爆熱丸さえいなければ、覇王丸は自分のものだったというのに――。
「……戻ろう……」
そろそろ稽古の時間であることを確認した孔雀丸は立ち上がって、
尻に付着した雑草を払い落とす。
くるり、と踵を返した瞬間、がくん!
「!」
ばしゃーん!
孔雀丸の踵が雑草の上を滑って、そのまま池の中に引き込まれた。
必然的に孔雀丸も背中から池に落ちる形となり、大きな水柱が立つ。
さほど深くはない池だが、今の孔雀丸にはコレがとても深い闇に導く水に見えた。
眼下には、太陽の光を浴びてキラキラと光る水面が映っている。
――嗚呼……。
孔雀丸はまるで一息吐くように、おっとりとした様子で考えた。
自分はここで死ぬのだと――。
助けなんて初めから求めていない。
どうせ誰も来ない。