短編V

□歓喜のシンフォニー
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 天宮(アーク)にある、とある山のふもと近くに一軒の屋敷がドンッと建てられている。
そこには日々子幼い子供たちの愉しそうな声が絶えなかった。


 そして、今日もまた――。



の シ ン フ ォ ニ ー




 屋敷の主、覇王丸は天宮(アーク)にあまねくその名を轟かせている刀剣の名将である。
世に五本しかないと言われている『五聖剣』の内の二振りを所持していることから、
大将軍になるかもしれないという声も上がっている。
本人は全くその気は無いようだが……。



「さーて、今日のメニューは……」

 愛読書でもある『武者之心得』シリーズの一冊を片手で開き、
午後からやってくる弟子たちに与える稽古メニューを思案する。


 その時、ドタドタドタ……と妻戸を隔てた廊下から騒音を立てて、
一つの足音が聞こえてくる。


 ん、と覇王丸が書物から視線を上げたと同時に、妻戸が開けられて、
そこから淡い赤色の着物に身を包んだ子供武者が入室してきた。


 その子はつい最近、覇王丸が戦場で拾って来たばかりの子供だ。
元の名を「爆」と言っていたようだが、覇王丸は更に「爆熱丸」と名乗らせた。




 爆熱丸は覇王丸に近づくと、彼の膝に飛び込んできた。


「どうした、爆熱丸?」

 問いかけながら爆熱丸の頭を撫でていると、
廊下からドスドス、と覇気がある足音が聞こえてくる。
そして、開けられっぱなしだった妻戸から眦を吊り上げた孔雀丸が顔を覗かせる。


「やっぱりここにいたな、爆熱丸!」

 怒声を上げた孔雀丸の声に反応して、
ビクッと肩を跳ね上げた爆熱丸は慌しい様子で覇王丸の後ろに隠れた。


「なんだ、どうした孔雀丸」
 爆熱丸の頭を撫でながら、血眼で歩み寄る孔雀丸を見て覇王丸は訊ねた。



「爆熱丸が俺の竹刀、壊したんです!」

「あー、爆熱丸は育て盛りだし、力の加減がまだ分かってないのさ。
笑って許してやれ」



「でも、あれは……!」
 孔雀丸はぐっと拳を握り締めて、憤りを押し殺そうとしている。
反論しかけていた言葉をあえて飲み込み、突然踵を返して部屋を出て行った。



「孔雀丸……?」

 覇王丸は出て行ってしまった義理の息子の背中を見て、不思議そうに首を傾げた。




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