短編V
□Snow in the Dark
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ガーベラは自身の体を支持する気力を一気に削がれてしまい、そのまま床に倒れる。
ガチャンッ、というマグカップが割れる音が、遠くから聞こえた。
次いで、デスサイズの低い笑い声が響く。
「おやすみなさい、プロフェッサー……」
その言葉を最後に、ガーベラの意識は混濁の闇へと誘われ、沈んだ。
+ + + + +
――おかしい。
機能が失われていた肉体に意識を取り戻した瞬間、ガーベラはそう思った。
寝ているはずなのに、床が動いている。しかも、縦横に。
「ぅ……、ん……」
少し呻きながら、ガーベラが瞼を小さく開き、ぼやけた視界に入り込んだ光が目を刺激する。
それを次第に慣れさせながら、完全に目を開くと、――絶句した。
見慣れた天上がある。そこはいい。しかし、それを隔てるように、視界の真ん中に棒が一本立っていた。
よくよく天上も見れば、天井の光景が過ぎ去っていくではないか。
「なんだ、これは……」
「おや、お目覚めですか?」
独り言を呟いた筈だが、それを返す言葉があった。
その声を聞いた途端に、またもモノアイの裏で、露骨に嫌そうな顔を上げる。
「デスサイズ、これは一体どういう――!」
文句を突き付けようとして、前方にいるであろうデスサイズを見たとき、
初めて自分が両手、両足を拘束されていることに気づいた。
どうやら視界の真ん中にある棒に両手足を括りつけ、宙吊りにされているらしい。
仰け反って後方を見ると、棒の先を方に担ぐ騎馬王丸の姿が確認された。
「騎馬王丸、デスサイズの代わりに説明してもらおう。これは一体どういうことだ?
返答次第では、目的地と思われる場所に到着した途端に解体(バラ)すぞ」
まるで脅迫するような低い声で問いかけると、
騎馬王丸はう、と言葉を詰まらせて、ガーベラから視線を外す。
「ふふふ……」
デスサイズの愉しそうな笑い声がガーベラの耳に届く。
「どうですか? 某漫画などでよく見られる、豚の丸焼きスタイルを体験しているご気分は?」
「単刀直入に言うならば、最悪だ。それより私をこんな格好をさせた理由を教えろ、デスサイズ」