短編V

□Snow in the Dark
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Snow in the Dark






 切っ掛けはデスサイズの一言だった。



「最近、ダークアクシズの要塞の中で一日中過ごすのは飽きて来ました」




 週に一度、三幹部が揃ってティータイムを過ごすという習慣がある。
その時に、紅茶を飲んでいたデスサイズが、唐突にそんなことを言って来た。



 残りの2人――プロフェッサー・ガーベラと騎馬王丸は「は?」と、呆れた様子でデスサイズを見た。


「それならラクロアに行け。お前がここにいても、仕事の邪魔だ」

「相変わらず冷たいお言葉、ありがとうございます、プロフェッサー」
 ガーベラの冷たい言葉に対して、デスサイズは嫌味で返す。


 デスサイズの嫌味にはもはや慣れた様子で、ガーベラは悠々とコーヒーを飲んで、軽くあしらう。


 その様子を、デスサイズはつまらなそうに見遣り、軽く嘆息した。

「しかし、正直なところ、あちらの光景には慣れました、飽きました。
第一、あちらにはラクロアの王を夢見る半端者(バカ)がいます」


「ならば、そやつを弄ればいいだろうに。少なくとも、暇が紛れるだろう?」
 緑茶が注がれた湯呑みを口につけながら、騎馬王丸は素っ気なく自分の意見を述べる。


 デスサイズは細い溜息を吐いた。
「確かに、最初は結構初々しく、すぐにムキになって、そこが面白かったんですが……。
いい加減、アレの反応に飽きてしまって……」







 仮初とはいえ、自分の主人をいい玩具(オモチャ)にしている――。






 ガーベラは呆気を含んだ溜息を吐き、騎馬王丸はデスサイズの主となったその男に情けを覚えた。




 同時刻、ラクロアの王城で暇を持て余していたトールギスが、
くしゃみをしていたというのは言うまでも無い。






「そこでどうです? ここは一つ、他の世界に出掛けるというのも」





「「…………………は?」」



 少し間をあけてから、ガーベラと騎馬王丸は返答した。






「何を言い出すのかと思えば……」


 溜息交じりに呟きながら、ガーベラはガタッと物音を立てながら、席から立ち上がる。




「おや、プロフェッサー、どちらへ?」

「ジェネラルの許に戻る。私はお前ら2人とは違い、私は忙しい。
先遣部隊の調整もしなければならないし、何よりジェネラルのお傍から離れる訳にはいかんのでな。
行くならお前2人で行って来い」


 一方的な――正論のように聞こえて、ほぼ私用の事情で辞退を謀るガーベラ。





 デスサイズと騎馬王丸が文句を突き付けようという頃には、既にガーベラの姿は休憩室の扉の外に隠れていた。
パシュッと、スライド式の自動扉が静かに閉ざされる。



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