短編V
□腹黒注意報
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「その通りだ。それがどうかしたのか?」
「いや、シュウトはもしかしたら、怒らせたら結構怖いのではないかと思って……」
「シュウトは私と知り合ってから一度も怒ってはいないが?」
「うむ。シュウトは子供ながらに心が広いようだからな。
さすがに私がセーラ姫のケーキを奪うと怒るが、それ程言葉遣いも悪くないし……」
「シュウトは心優しい子だ」
「それは私も分かっている。だが――な」
歯切れの悪いゼロの口ぶりに、キャプテンは不思議そうに首を傾げた。
「キャプテン、シュウトがなにやら小さな機械を使ってザクレロゲートを脅迫したか、覚えているか?」
「あぁ……あの時、シュウトは自分で開発したボイスチェンジャーでザッパーザクの声を真似て、
『こらァ、このうすのろゲート野郎! さっさとネオトピアへのゲートを開けるんだ!』――と言った」
ガンイーグルより感情が乏しいキャプテンは真顔で
シュウトが口真似した台詞を一言一句間違えることなく、口調をそのままにして答える。
ゼロと勿論、キャプテンの近くにいたガンイーグルも、たら〜と何処からとも無く汗を流す。
「シ、シュウトって、結構言うんスね、そういうこと」
「あぁ、私も一瞬何かの聞き間違いかと思ったぞ」
いくらザッパーザクの口真似をしていたとはいえ、日頃のシュウトからではまるで想像がつかない。
だからゼロは、もしかしたらシュウトは案外キレたら怖いタイプの性格ではないかと聞いたのだ。
「あ、キャプテン、こんな所にいたんだね♪」
噂をすればなんとやら――シュウトが調整室に足を運ぶ。
呼びかけられたキャプテンは仕事をしていた手をピタリと止めて、
どうした、と問いかけながらシュウトを見る。
「うん、ちょっと付き合って欲しいんだ」
「私に?」
「キャプテンじゃなきゃダメなの。それとも、今忙しい?」
少し悲愴が宿った表情で首を傾げるとキャプテンは今まで行っていた仕事を破棄し、
大丈夫だ、と頷く。
(いや、キャプテン、まだ終わっていなさそうだが……)
見ればビームライフルのエネルギーはまだ60%も満たない状態だ。
仕事よりシュウトを取るとは――キャプテン自身が気づかないうちに、
それ程までにシュウトに対しての固執がわいているということらしい。
良かった、と微笑んだシュウトはキャプテンの背に回って
彼の背を押しながら調整室を出て行く。
最初にキャプテンが調整室から廊下に出た瞬間、
シュウトが肩越しにゼロとガンイーグルを振り返った。
「僕の許可無く、勝手に僕のキャプテンにちょっかいかけないでよね」