短編V

□窓辺の姫様
3ページ/4ページ



「すまない、少し仕事に集中していて……」
 デスサイズの視線が向けられる前に、机の上にあった書類を適当に掻っ攫っては、
まるで仕事をしていた風に構えながら、そんなデタラメを言う。

「貴方はいつでも仕事熱心ですね。いやはや、プロフェッサーも少し見習って欲しいものです。
四六時中、ジェネラルのお傍に付きっ切りで、あなたに仕事を押し付けたまま……」

「プロフェッサーは<世界の光>が降臨してからというもの、少し根を詰めすぎている。
確かに<世界の光>をジェネラルに捧げれば、かの皇によって失われた体は修復し、
全ての次元を支配出来るだろう」

「あぁ、<世界の光>で思い出しましたが、彼女は今ラクロアにいるそうです」
 ノイエ・ジールはモノアイの裏に隠された瞳を大きく開き、
微かに肩を跳ね上げる。

「かの皇の転生者というのは本当らしいですね。
黄昏時を示す夕暮れ色の髪、宝玉にも勝るほどの輝きを持った赤紫の瞳……」
『光の姫君』を褒め称えるデスサイズの声には別の意味での慈愛が込められている。
その言葉が何を意味しているなど、ノイエ・ジールにはすぐに察せられた。

「おっと……お喋りが過ぎましたね。では私はこれで……」
 一体なにしに来たのか――本来ならば、そんな素朴な疑問を投げかける筈だが、
今ノイエ・ジールの思考を埋めつくには姫のことだ。

 デスサイズが出て行き、部屋の扉が完全に閉められたと単に、
ノイエ・ジールは近くに置かれてある机に両手を置き、ガクッとうな垂れる。
「あの姫様が、ラクロアに……」

 ダークアクシズに落とされたラクロアには今トールギスがいる。いや、尚更危険だ。


「ふ、ふふふ……はは、ふふふはははは……」


 地を這うような低い声を響かせながらノイエ・ジールは笑う。
彼の後ろに立っていたブレイカーゲルググは、
ごく稀にしか笑えない上司の恐ろしい一面を見て背筋を凍らせた。
正直言って怖い。そして――。

「っ――!」


 ガンッ!――ドドッ!

 ラクロアにいるという姫の身の危険を知りながら何も出来ない歯痒さと
デスサイズの口調に含まれているあの慈愛――その二つを込めて、
憤怒が心頭したノイエ・ジールはGNバズーカではなく、普通の拳を壁に叩きつけた。
ダークアクシズ要塞全体にその振動が響き渡り、彼の拳がめり込んだ壁から細かな亀裂が走る。

 その後、ノイエ・ジールの怒りが鎮まったのは、
姫が無事に純粋のままラクロアからネオトピアに帰還として知らせを受けた後だった。










次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ