短編V
□ミュージック・レッスン
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すると、見る見る打ちにシュウトの表情に輝かしい笑みが宿り始めた。
「という訳で……」
言いながらロックはゼロの肩にポン、と手を置いた。
「ゼロ、あとの仕事は貴方にお任せ致しました」
「えっ……、はっ!?」
「私は貴方と違って、絶対音感しかないので、あとは貴方の仕事として譲渡します。
宜しくお願いしますよ、救世主様?」
ゼロ以上に言葉を強調して言い放ったロックに言い返す言葉が見つからず、
結局ゼロが落胆とうな垂れたことでロックの勝利が確信されたという。
+ + + + +
ロックの執務室にゼロを残して、ロックとシュウトはラクロア城の中に設けられている音楽室に足を運ぶ。
「適当な管楽器がなかったので、私はフルートで指導しますね」
「はい、お願いします!」と元気良く言葉を放って、礼儀正しく頭を下げる。
リリジマーナが恋心を抱くことにより、シュウトは未来のラクロア王となり得る人物だ。
まだ幼いながらも他人との礼儀をちゃんと弁えていることに感心しながら、
ロックはシュウトにリコーダーを構えるように促した。
シュウトはリコーダーの穴と指の配置を確認してから、目の前に置かれた譜面を見る。
そして、リコーダーの筒に息を吹きかけ始めた。
―――♪
〜〜〜〜〜♪
〜〜〜――♪
音楽室に流れるリコーダーの音色を聞きながらロックはふむふむ、と頷いてみせる。
一通り吹き終わったシュウトに、ロックは思案顔で、まず自分の耳に聞いた感想を述べる。
「とてもいい線はいっていると思います。
ゆったりと水が流れるようなリズムで、決して濁ってはいない清潔な水が連想される音色……」
ですが――、とロックはシュウトが持つ譜面の一部を指した。
「ここの部分の音が少々乱れていました」
「あ、うん。何度練習しても、ここの音がどうも上手く出ないんだ」
「そうですね。見ればソプラノリコーダーのようですし、
それで低い音を出すのは少々厳しいでしょう。
どの管楽器もそうですが、ソプラノ系の低い音を出すときは息を優しく吹きます」
このように、とフルートを構えて低い音を出す。
「息を吹きかける加減は――そうですね……、
シャボン玉を膨らます際、優しく息を吹きますよね?」