短編V
□ミュージック・レッスン
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ダークアクシズの戦いにより、所々復旧しなければならない箇所と
新しく入団してきた騎士(ナイト)達の編成――、その他諸々の資料と
にらみ合っていたロックは一息を吐きながら机の隅に置いていたコーヒーを口に運ぶ。
つと、ロックの視界にヴァイオリンが入り込む。
「そういえば、ここ最近は忙しくてやっていませんね」
ガタッと椅子から立ち上がり、ヴァイオリンを手にする。
ヴァイオリンの本体を肩に乗せて弓を構える。
大きく深呼吸をして、ヴァイオリンの本体に備わっている弦に弓を滑らせた。
――――♪
〜〜♪
弓の弦とヴァイオリンの本体の弦が交じり合い、心地よい音色が部屋の中に響き渡る。
恐らく 部屋の周辺にもこの音が行き届いているだろう。
他の人達の仕事の邪魔になるという理由で今まで弾いてはいなかったが、
久々に弾いて見ると弱冠自分の腕が落ちていると言う実感がわく。
〜〜〜〜♪
――♪
――……♪
少し余韻を残して弾き終わると、何処からかパチパチという拍手の音が聞こえる。
ロックが何気なく自室の扉に視線を滑らせてみると、
そこにはシュウトを伴ってロックの部屋に訪れていたゼロが立っていた。
拍手は2人から送られている。
「さすがだな、ロック」
「凄い! ヴァイオリンなんてテレビしか見たことないからビックリした!」
ゼロは静かに称賛の言葉を投げかけ、
シュウトはやや興奮気味にロックのヴァイオリンを褒め称えた。
ロックは微かに頬を赤く染めながら、ヴィオリンを机の上に置く。
「これでも昔に比べたら腕は下がりましたよ」
「そうなのか? 昔と対して変わらないような気がするのだが……」
絶対音感を持たないゼロの耳には微かな音の違いも分からないのだろう。
几帳面に見えて、その実、結構大雑把な同僚を前に、ロックは呆気を含んだ溜息を吐いた。
「ゼロ……だから貴方は音痴なのです」
静かにそう告げるとゼロの額に青筋が浮かんだ。
ロックはゼロからの苦情を飛ばされる前に本題に入る。
「今日はどうしました? シュウト殿もお連れして……」
「あぁ、絶対音感しか無いロックに頼みがあってな」
先ほどの仕返しか、露骨に「絶対音感」という言葉を強調するゼロ。
ロックでなければここで口論となっていたところだが、心が開く、
心身共に大人であるロックは笑顔でそれを両断し、
「お褒めの言葉、ありがとうございます」と言い返した。
ゼロの額に更に青筋が浮かぶ。
ゼロとロックの間に不穏な雰囲気が漂い始めたのを悟ったのか、シュウトが慌てて本題に戻る。
「あの、実は僕が吹くリコーダーの音を聞いてほしいんだ。
今週末にね、僕が通う学校でリコーダーの発表会があるから、
それで、ちょっと自信がないから……」
ダメですか、と最後に訊ねると、ロックは柔らかい笑みを浮かべて「いいえ」と首を振る。
「私でよければ、ご指導致しましょう」