短編V
□キミの笑顔が見たいから
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「セーラちゃんのケーキ……ぐす」
あれは――そう、ゼロがシュウトとキャプテンの前に始めて姿を現した日の晩だった。
小屋ではなく、自宅の自室に困ったシュウトはベッドの上に膝を抱えて、
陰鬱な雰囲気を漂わせている。
シュウトの両親からシュウトの様子を見て欲しいと頼まれているため、
部屋から出られないキャプテン。
それ以前に、そこまでしたセーラの手作りケーキを食べたかったというシュウトの心に、
キャプテンは些か理解に苦しんだ。
キャプテンは当たり前にヒトとは違う。
人工的に作られた存在であるため、ヒトのように食欲などは持ち得ない。
だから分からない。シュウトがセーラの手作りケーキに対する思いが。
(こんな時、私は何も出来ないのだな……)
戦闘のときはシュウトを背に守り、彼から声援を貰うことでソウルドライブを発動させる。
だが、日常においては自分は無知に近い。
どうしたものか――。
とりあえず、これ以上陰鬱な雰囲気を出しているシュウトを見てはいられない。
そう思い、彼に気づかれないように、キャプテンは退室した。
+ + + + +
「これでいい?」
そう言ってシュウトの母であるけい子はキャプテンに一冊の本を差し出した。
表紙に「簡単!お菓子の作り方」と書かれた本を手にしたキャプテンはパラパラと中を捲って確認すると、
パタンと閉じて一礼する。
「はい、ありがとうございます。
あと、キッチンを暫く貸してもらえませんか?」
「あら、キャプテンさんも何か作るの?」
「はい。私の大切な人に送りたいと思って……」
すると、何を思ったのか、まあ、と驚嘆の声を上げたけい子の表情が
何か特別な意味をもって歪む。
「喜ぶといいわね、その人」
「善処します」
頷き、けい子の脇を通ってキャプテンはキッチンに立った。
少し汚れもあるが、並みに比べたら綺麗の部類に入る。
折角借りた本を汚す訳にもいかないので、少し汚れが目立つ場所を掃除してから、
キャプテンは本を広げた。
パラパラ……と捲り、ある1ページで止める。