短編V

□平定の日常茶飯事
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「元騎丸、何度言えば分かる!」
「騎馬王丸こそ、何度言えばわかるんだよ!」


 今日も今日とて、平定を築き上げられた天宮の大地を進む天地城の中で、
騎馬王丸と元気丸の怒号が響き渡る。


 中庭に続く簀子に腰をかけていた覇王丸と武里天丸は、
妻戸が開けっ放しになっている部屋を振り返った。

「まーたやってんのか、騎馬王と元気丸は。今回、何が原因よ?」
 何気なく投げやった質問を返してくれたのは、この部屋の傍らに待機していた虚武羅丸だ。

「騎馬王丸様が用意した学問の書物を、若が全部拒んだのだ」

「あぁ〜、元気丸は学問嫌いだからなァ」

 バサッと扇子を広げて、パタパタと自分を扇ぐ覇王丸。
チラリと、脱力仕切った瞳が未だ怒号が轟く部屋を一瞥した。


 そろそろと足音を殺して妻戸から顔を覗かせては部屋の様子を窺う。
火花を散らせ、口論を続ける親子を見遣り、はぁ、と小さく溜息を吐いた。


「おーい、騎馬王ー、元気丸ー、お前ら疲れないかー?」
「覇王、邪魔をするな!」
「これはオイラたちの問題だ!」

「あ〜、そうは言ってもね〜、俺だって黙って見過ごしたいけど、お前らが暴れられたら、
俺の愛しい盆栽たちが壊れる危険性がある訳よ」

「別に覇王丸の盆栽が割れたって、オイラたちには関係な――」
 ガチャン!

 元気丸の言葉を遮るようにして、突如として天井から金属タライが落ちてきた。
唐突な出来事に反応出来なかった元気丸の頭に、タライが見事命中し、元気丸は頭を押さえて悶絶した。

「Σ元騎丸!?」

「って〜……何すんだ、覇王丸!」
「あ〜、いや、さっき少し聞き捨てなら無いよーな言葉が聞こえたみたいだから……」

 その前にいつタライなんて仕組んだんだ――?
 畳の上に落ちたタライを一瞥した親子は、ほぼ同時にそう思ったそうな。

「元気丸、学問は大事だぞ?」
「覇王丸までそんなこと言うのかよ」

「いやいや、よく考えてみろ?
未来の大将軍ともあろう者がだ、学問の一つ出来なくてどうする?
大将軍たるもの文武両道でなくてはな」

「別に大将軍だからって無理やり文武両道にすることねーじゃねェか」

「はぁ〜、分かってないねー。
文武両道を極めた武者ほどカッコいいものはないぞ?
それに大将軍で文武両道だと騎馬王の奴を見返せる」

「ほ、本当か!?」
「俺が嘘言った日にゃあ、豪雨か豪雪だ」

 愉快そうに笑った覇王丸に嘘偽りがないと悟ると、
元気丸は騎馬王丸から貰った書物を全て掻っ攫い、颯爽と部屋を出て行き、
虚武羅丸を伴って自室に戻っていく。

「さーて、茶でも飲み直すかねー」



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