短編V

□戦乱の掟
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「嫌い? 俺がアレを? 付き合いが長いせいか、アレの性格にゃ慣れてるからな。
だから一生、嫌いにはなれないさ。
まあ、孔雀丸の一件に関しては一発殴らせて貰わないと示しがつかないが」


 何より、自分の息子のように愛くるしく育てた息子を手駒にし、それを死なせた。
親の立場では恐らく、そんな風に仕組んだ騎馬王丸を憎み、殺意を抱いただろう。
覇王丸の心にそれが生まれないのは、彼が騎馬王丸と幼馴染の間柄だからだろうか。


「それを除いたとしても、騎馬王には一発殴ってならなければ、アイツはきっと目を覚まさないだろう。
もう、アイツの目には天宮(アーク)の平穏など入っていない。
ただ強大な力を手に入れるという破壊的衝動があるだけだ」

「そのために元気丸を使って武者大神将を……。
でも、元気丸が自分の子供だって分かれば騎馬王丸だってきっと……」

「それは、ようやく積み上げたモノを途中で投げ出すようなことだ。
騎馬王の性格は堅物の親父と同じ……。
元騎丸が自分の息子だと知っても、戦乱の世という理由で敵だと判断し、容赦なく切り捨てる」

 そんな、と呟きながらシュウトの視線が次第に伏せられていく。
覇王丸はそんな彼の頭を、慣れた手つきで撫でた。


「アイツは確かに強大な力に魅入られてしまったかもしれない。
けれど、まだ間に合うだろう。
孔雀丸の二の舞にさせないためにも、そしてアイツに長生きして欲しいと願った陽騎のためにも、
一刻も早くアイツの目を覚まさせてやらないとな」


 本当はココに陽騎がいたら、手っ取り早いんだがな――心の中でそう思っても、
彼女の墓は元気丸と共に小さな丘に建てて来たばかりだ。
彼女が死んで、早数年――まだ数年としか経っていない。


「間に合うかな?」

「合うさ、きっと。
そのために、今まで武里天丸の加勢を拒んできた俺が来たんだ。
間に合わなければ困る」


 爆熱丸や孔雀丸が屋敷から出て行ったあとも、あそこから一歩も外に出ず、
武里天丸や騎馬王丸の戦いのこともまるで他人事にあしらっていた覇王丸が、ついに動き出した。
そのことは以前シュウトとリリジマーナを助け出す際、
交戦した騎馬王衆を通じて騎馬王丸の耳に届いていることだろう。



+ + + + +




「なんだと、覇王が動き出した……!?」

 ダークアクシズ要塞から戻ってきた騎馬王丸は天守閣にて、
留守中の天地城の出来事を騎馬王衆から聞き、己の耳を疑った。



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