短編V

□戦乱の掟
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「孔雀丸は、立派に……逝きました……!」


 覇王丸が第三勢力として武里天丸軍に滞在することを告げた途端、
爆熱丸は涙交じりの声で、はっきりとそう告げた。
覇王丸の傍らに立っていた将破丸が軽く目を見張り、「なんですって……?」と呟く。


 覇王丸はそっと目を閉じ、ただ一言――、そうか、という言葉を返した。





− 戦乱の掟 −






 天地城を奪われた武里天丸は富士山のふもとで基地を設けている。
そこに建てられた櫓(やぐら)に、覇王丸は居座り、野武士に代わって、
ゆっくりと距離を縮めてくる天地城を見据えた。


 ――カタン。
小さな物音にも微動だにしない覇王丸は、静かに自分の腰に下ろす少年を視界の端で一瞥した。
コトっと小さな更に盛られたおにぎりが床に置かれる。

 覇王丸はおにぎりには手をつけず、共に置かれたお茶に手を伸ばして湯呑みに口を付ける。


「爆熱丸と阿修羅丸の戦い、凄かったんだ」


 シュウトという名の少年は静かに語る。

「阿修羅丸から果たし状が来たとき、爆熱丸凄い血相で僕のうちから出て行って……、
そして、僕らも慌てて追いかけたらね、もう戦いは始まってたんだ」

 その言葉からでも容易に想像できる戦いの図だと、覇王丸は思う。


「一回目はキャプテンが爆熱丸を庇って、なんとか同点で終わったけど……二回目は……」

 シュウトの言葉が急に歯切れの悪い言葉へと終わる。
そこで師王丸は察した。
二回目の決闘の末、阿修羅丸と名を変えた愛弟子が逝ったのだと。
誰であろう、自分よりあとから入門してきた可愛い弟の手によって、その命に幕を下ろされたのだ。


 覇王丸は片手の中で弄っていた扇子をパチンッという乾いた音を立てながら閉じた。
シュウトの小さな肩がピクリと動く。

「俺が自分の得物だった『五聖剣』を爆熱丸に授けたときから、こうなることは知っていた。
孔雀丸は幼い頃から『五聖剣』に対する執着が酷かったからな……」


 幼いながらも孔雀丸は血反吐が吐かんばかりの厳しい修行をその身に受けてきた。
勿論、覇王丸が与えたものが過半数であったが、残りは孔雀丸自身が進んで行っていたものもある。

 全てはこの世に5本しかないといわれる名刀『五聖剣』を手に入れるため。
覇王丸に報いるという言葉は本当であっても、大半の理由は前者だろう。


「強大な力ほど、ヒトは魅了され、清心を邪に染まる――。
昔から爆熱丸共々、そう教えてきた筈なんだがな。
孔雀丸が悪いという訳ではない。
その教えを、アレの心まで訴えることが出来なかった俺の責任だ」

 ぐっと唇と共に扇子を握り締める。



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