短編V

□冷静沈着な男に休息を!
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 永眠していたほうがずっとマシだったかもしれない。
――起きてすぐにレアヴァーナはそう思った。


 あれから数時間ほど仮眠をとり、目を開けた。
すると、眼前に広がる光景に頭の意蜜が更に増したような気がした。

 マドナッグやキャプテンは別にいいとしよう。
キャプテンは隊長だし、マドナッグとは元・主従関係にあった。
――だが、何故トールギスやらデスサイズやら破餓音丸やらがいるんだ――?


「レアヴァーナ様……」

 気だるいながらに上半身を起こしていると、うら若い女性の声が鼓膜を叩く。
先ほど一瞥したメンバーの中に女性など勿論いない。
ジュリが戻ってきたという選を考えたが、彼女にしては声質が高い。

 誰だろうと訝しげに思いながら横目で見遣る。
亜麻色にも似た色合いの髪を左右で結い上げ、その間に飾られた小さなティアラが
光を浴びて輝いている。
細身の体を包む衣服は黒を主張したドレスだ。
その衣服も、顔も、声も、何もかもが彼女に酷似している。


「リリジマーナ――いや、クローリナか」
 はい、とクローリナは柔和な微笑みを浮かべて頷いた。

 クローリナ・ミヤ・ド・ラクロア――実質、その正体はデスサイズが
プロリンセスローズにかけた魔法で幻影たる存在。

 ラクロアを元に戻した際、彼らとの処遇と共にクローリナの処遇も下された。
処遇といっても、リリジマーナの双子の妹として城に住み込む、というものだ。
その提案を出したのはリリジマーナ自身で、想像物であるクローリナには勿論、
拒否権なんてものは存在しない。
が、彼女にとっては身に余る処遇だと泣いて喜んでいたそうだ。


 ちなみにレアヴァーナがクローリナと接触したのは、先日行われたラクロア完全復活の宴の席でだ。
双子の妹と公表されたとはいえ、彼女自身はデスサイズの魔法で作られた幻影――。
そのことを気にしていたのか、彼女は誰にも――デスサイズにさえ、近寄らずに
独り寂しく時間を過ごしていたので、声をかけてみたところ、
彼女に気に入られてしまったという訳である。


 故にクローリナは度々リリジマーナと共にネオトピアに遊びに来ては
こうしてレアヴァーナの元に来るのだが、――今回はレアヴァーナが
風邪だということを聞いて急いで来たのだろう。


 レアヴァーナを見つめているクローリナの瞳が心配そうに揺れ、翳りを帯びている。


「レアヴァーナ様が風邪でお倒れになったと聞いたもので」

 倒れてないから。


「40℃以上の熱で苦しんでいるとか」

 ギリギリ39℃です。それに、それ程苦しんでません。


「あ、悪夢にもうなされていると聞きました!」

 今が悪夢です。



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