短編V

□先手必勝の巻
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「よし、なら元いた場所に返して来い」

 再びそういっても、爆熱丸と孔雀丸は首を縦に振られる事は無かった。
互いに顔を見合わせて、不安げな視線を交わす。


 覇王丸は内心、もう一度深い溜息を吐いた。
バサッと扇子を広げて口元を覆っては途方の無い目線を天井に向ける。


(確かに情に捨ててはならん、とは言ったが……)

 何も今発揮されても、正直困る――。


 コレが子犬ではなく、孤児であったら、喜んで屋敷で育てていただろう。
しかし、犬――動物となると色々世話や食費などで出費が激しい。
ただでさえ、大飯食らいする育ち盛りの子供武者が2人もいるのだ。
それ以上、出費が激しければ赤字になる。それだけは絶対に避けなければならない。


(理由言っても、この2人が素直に頷いてくれるとは思えんしなァ)

 むしろ、俺達で育てるからー、とか言いそうだ。


 実際、どうやって覇王丸を説得しようかといった風で、小声で会議を開いている。
ここまで一生懸命だと覇王丸の良心が痛む。


「分かった。なら、こうしよう」

 覇王丸が放った言葉に、2人は会議を止めて彼を見た。


「俺から五聖剣の一振りでも奪えたら、お前たちの勝ちだ。その子犬はうちで育てる。
期間は――、そうだな。1週間といったところか。
その期間内に五聖剣を奪わせなかった俺の勝ちだ。その仔は元いた場所に返すんだ」

「え、この間、この仔はどうするんですか?」
 爆熱丸は眼下にいる子犬を不安げに見下ろす。


「あぁ、その間は屋敷の外でお前たちが育てろ。
ただし、最低限の世話だけだ。
お前達が勝ったら正式に屋敷内で飼うことを許可する。どうだ?」


 最後に悪戯っぽく笑って見せると、爆熱丸と孔雀丸は愕然とした顔で互いに見合わせ、
――再び覇王丸を見ると、喜々たる表情で頷いた。

「「はい! 受けて立ちます!!」」


 覇王丸が満足気に頷いた瞬間、孔雀丸が足をひっそりと忍ばせて、
覇王丸の傍らに置かれた五聖剣の一振りに向かって飛びかかった。
だが、覇王丸が瞬時に二刀を掴み上げ、飛びかかってきた孔雀丸の額に手刀を叩き込む。

 一瞬にして撃沈した孔雀丸の頭を撫でながら、
覇王丸は、今度は黒いオーラが漂う笑みを浮かべた。


「これも修行……容赦なんてしたら、お前たちに悪いもんな?」

 気絶している孔雀丸に代わって、
爆熱丸は覇王丸との賭け事に承諾したことを心底後悔したという。



+ + + + +




 それから爆熱丸と孔雀丸の五聖剣強奪戦が始まった。



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