短編V

□先手必勝の巻
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「――ししょー、コレ飼っていいですか?」

 師匠・覇王丸から言い渡されていた御使いを終え、
その報告と共に彼の私室に入った爆熱丸と孔雀丸。
その中、爆熱丸の腕に抱えられたそれに視線を落としながら、爆熱丸は問いかける。


 ふさふさの毛に覆われた身体に、爆熱丸の腕から飛び出ている小さな手は、
そのしぐさだけで大半の者を魅了させるだろう。
覇王丸を見るつぶらな瞳は、無垢な子供のそれと酷似しており、邪気など感じられない。


 覇王丸は不安げに自分を見つめる爆熱丸と孔雀丸、
そして無邪気な瞳で見つめるそれを見てから、ニッコリと笑って見せた。
一瞬、彼らの表情に明るさが募ったが、それも次に飛びかかる覇王丸の言葉により撃沈する。



「――元いた場所に返して来い」





先 手 必 の 巻






「「ししょ〜!」」

 涙ぐみながら、爆熱丸と孔雀丸は覇王丸に言い寄る。
「武者の心得」という題名の書物に目を通していた覇王丸は細く息を吐きながら、
ちらりと己の息子たちを一瞥する。
まだ心身共に幼い息子達は「飼って飼って」というオーラが漂う眼差しを向けてくる。
目の錯覚でなければ、キラキラ〜という効果音と共に鬱陶しいほどの輝きが加わっている。

 それを手で払いのけながら、覇王丸は爆熱丸の腕の中にいる子犬を見る。
恐らくそれは捨て犬のようで、所々薄汚れている。


「よし、分かった」

 掌で遊んでいた扇子をパチン、と畳み、覇王丸は言い放つ。


「一度綺麗にしてから、元の場所に戻して来い」

 悪気のない、無邪気なオーラを周りに漂わせ、満面の笑みを浮かべて言うと、
爆熱丸と孔雀丸の体勢が軽く崩れる。


「ししょー!」
「ししょーの辞書に『飼う』っていう文字はないんですか!」
「無い!」
「Σ早!」
「ってか即答ですか!」
「ししょー、冷たすぎます!」

 遂に覇王丸の身体を揺さぶるまでに近づいてきて、言い寄る2人。
覇王丸の体が横に揺れ、目を通していた文字に焦点を合わせることが
出来なかった覇王丸は、深々と溜息を吐くと、書物を閉じた。

 ぴくり、と2人の体が硬直する。
そんな2人に、覇王丸は再び満面の笑みを浮かべてみせた。


「どうしてもって言うなら、飼ってもいいぞ? ただし、非常食として」

「「すみません、もう言いません……」」



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