ギルティギア・SS ブック

□大罪者への安息
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 一旦重箱から視線を上げ、訝しげに闇慈を見て問いかける。



「意外かい?」



「い、いいえ! とんでもない!
やはり生まれ故郷の味ぐらい、自分で作らねば――」



 そこまで言ってカイは慌てて口を噤んだ。
恐る恐る肩越しにジャスティスを振り返る。





 孤高の女王は相変わらず美しい柳眉を眉間に寄せて深い皺を作って、
口を横一文字にして黙したままだ。
その無言の圧力が、カイの肩に重々しく圧し掛かる。





 カイやクリフのような地図上にまだ存在している国の出身者とって、
ジャスティスは聖戦時代の中で倒すべき敵だった。
和解した今では、すっかり家族のように接している。






 だが、闇慈達日本人にとってジャスティスは聖戦が終わっても――、
数百年、数千年経っても、日本という島国を世界から抹消したという事実が
歴史に刻まれている限り、忘れない仇敵となるだろう。




 最近は丸くなったジャスティス。
日本人には冷たいが、罪悪感を持っていない訳でない。




 この無言の圧力が何よりの証拠だ。










「……半裸」








 ジャスティスが唇を開いて闇慈を呼ぶ。





 半裸という呼び方について小さく文句を言っていた闇慈だが、
無視することなく、何だい、と応じる。




「1つ、貰って良いか……?」



「勿論だよ。ただ、ギアの味覚に合うほどの自信作じゃないからね」



 ジャスティスはただ一言、そうか、とだけ応じて重箱の中にある桜餅を
茶菓子用に添えられていた小皿の上に乗せた。
大きい笹の葉に包まれた桜色のもち米を口に運び、小さく頬張る。




 ジャスティスの何気ない動作の1つ1つが闇慈ではなく、
カイに緊張を走らせていた。




 黙々と口の中で歯を動かし、桜餅を咀嚼するジャスティス。
やがて、彼女の喉が静かに上下に動き、ティーカップに口を付ける。




「どうだい?」

 闇慈が問う。



 闇慈以上に緊張を持ちながらカイはジャスティスを振り向く。





 彼女はニコリともせず、言う。



「あぁ、なかなか美味かった」







 途端、闇慈は一瞬驚いた顔を見せたがすぐに微笑み、
カイはその場で全身の力を抜くようにして大きく嘆息した。




「先ほどからどうした、若団長。何をそれ程緊迫する必要があった?」




「あ、いえ……」




 自分勝手に抱いていた感情をどう説明していいのか分からず、
困惑していたカイの弁解に闇慈が入る。




「俺がギアの帝王さんを恨んでるかもしれないって事だろ?」




 カイの肩がビクゥ、と跳ね上がった。



 ジャスティスが露骨に呆気を含んだ溜息を吐き捨てる。



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