短編U
□弟子と師匠
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また・・。
− 弟子と師匠 −
木枯らしの吹く天宮。季節は肌寒い冬に近づきつつある秋だ。
それはまだ爆熱丸、阿修羅丸―・・基、孔雀丸が元気丸ほどの小さい頃――。
爆熱丸、孔雀丸の師匠、覇王丸の道場は小奇麗で床には埃一つ、いなかった。
それと日々二人が雑巾がけを競いながらキッチリとやっているお陰でもあった。
道場の廊下と覇王丸の家は繋がっており、そこで二人は身を寄せていた。
だが、その二人は――。
「孔雀丸、今日こそは絶対に勝つ!」
「お前なんかに負けてたまるか、今日も俺が勝つ!」
炊事、洗濯と掃除・・二人は何時も自分が一番だと競い合い覇王丸の悩みの種だった。
そんな師匠の心境も察せられない二人はまだまだだ。
所が此処最近、孔雀丸が勝つ事が多くなっていた。
今回は廊下の床拭きで勝負らしい。二人はバケツに水を汲み、雑巾をバケツの中へ入れた。
季節の所為か、既に水は氷のように冷たく、二人の手は少し赤くなっていた。
水を含ませた雑巾を絞り、木の床に平らに置いた。
お互い相手を少し睨んで構え方がクラウチングスタートを意味しているかのようだ。
「・・・よーい・・。」
『ドンッ!!』
合図と共に二人は長い廊下を真っ直ぐ突き進んだ。
廊下は雑巾での濡れ拭きによって次第に綺麗になってゆく。
だが二人は床が綺麗になる優越感には浸らずに、闘争心で胸がいっぱいだったのだ。
端から見れば微笑ましい・・と言えるのだろうか。
暑苦しい雑巾がけをしている二人が見える位置の畳の上で二人の師匠、覇王丸は書物を読んでいた。
書物と弟子達を交互に一瞥しながら覇王丸は何気に勝負の行方を気にしていた。
『うぉぉー!!』
ラストスパートへと向かっている二人はまだ互角の位置にいた。
雑巾が二人の摩擦の影響でボロボロになりそうな勢いだ。しかも、雑巾はまだ新しいと言うのに―・・。
覇王丸は使い古したタオルを縫ってそれを雑巾にしようか、と考え始めていた。
雑巾代でお金を削りたくないからだ。
そんな師匠のちょっとした苦悩も知らずに二人はいよいよゴール目の前、廊下の端へと向かって行った。
途端に油断したのか、爆熱丸は誤って足を滑らしてしまった。
「うわっ;!」
低い位置で転倒した爆熱丸を孔雀丸はチャンスと思い、ゴールへと駆けた。