短編U

□微笑む風
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 ラクロア全土に漂っている風はパラムの感情に影響されて強さなどが変わる。
今日は木々がなぎ倒れんばかりの強風――故に、パラムが怒っているのだとばかり思っていた。


 どうしたものかと思案する。怒っていたなら、宥めれば落着なのだが、
泣いているとなるとどうしていいのか分からない。

「パラム……」

 呼びかけると、彼女は意外と素直に応じ、両手をどけて、涙で濡らした顔を上げる。
その顔を見ただけで、どう言葉をかけていいのか分からなくなる。
実際の何千年、何万年と生きている彼女だが、容姿は幼子当然なのだ。
昔から、彼女が泣いている姿ほど苦手なものはなかった。



 困り果てたトールギスはとりあえず腕を伸ばし、
パラムの目尻に溜まっている涙を拭ってやる。

「俺は決してお前を嫌いになった訳では無い。
確かにラクロアを堕落させたのは――謀ったのはデスサイズであっても、
結局手を下したのは俺だ。
お前が怒る理由も、泣く理由も理解できる」


 すると、パラムは抹茶色に染まっている長い髪を横に振った。
彼女の涙を吸い取ったように、ねっとりとした湿気の多い風がトールギスの頬を撫でる。


「違う、のか……? なら、なんでお前は泣いている――?」

 想定していた答えが意図も簡単に否定されたことに、軽く困惑しながらも、
未だに涙を眼窩に溜めるパラムに問いかける。


 応じるように風が唸る。すると、トールギスは納得するように頷き、パラムに歩み寄った。

「そうか、お前は、寂しかったのだな……」

 今まで親しくしていた人物が、掌を反したように豹変し、
国家反逆罪にも等しい叛乱を起こしたのだ。しかも、2回。

 パラムはラクロアにマナが漂うことがなってから、永い年月を生きている。
しかし、その心はまだ無邪気な子供のそれと酷似している。
故に、負の感情が招いた結果は、必ず彼女の心に深い傷跡を残すだろう。




 トールギスはパラムを引き寄せ、その小さな体を抱き締めた。

「すまなかった……お前が傷つけるつもりは無かったのだ」

 宥めるようにそう言うと、パラムが眼窩に溜めていた涙を流しながら、
そっと抱き返してくる。
エメラルドグリーンのような輝かしい緑色の瞳から流れる涙が
彼女の白い頬を濡らしていく。


 やがて――、ようやく泣き止んだパラムの頭を撫でながら、
「もう大丈夫か?」と問いかける。
パラムは泣き腫らした目を持つ顔を上げると、ニッコリと笑って見せた。
赤く腫れた目が痛々しく思う、トールギスはハンカチを取り出すと魔法でそれを濡らし、
パラムの目に優しく当てる。


「腫れたままでは、折角の可愛い顔が台無しだからな」

 平然とそう言うと、涙で濡れていたパラムの頬に朱色がさし、
抹茶の髪が揺れたと思うと、愛らしい童顔が髪の合間に隠れてしまった。
どうやら恥ずかしさに俯いてしまったらしい。


 トールギスはまた小さく笑うと、その小さな体を抱き締めた。
 宙を漂う風は吹き荒れることなく、次は涼風となって虚空を漂う。
涼しい風が、2人の間を囲むようにして舞い踊る。



FIN....







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