短編U
□微笑む風
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「だが、実際に姿を現していないんだろう?
お前が知らない内にパラムを傷つけたんじゃないのか?」
「安心しろ! 心当たりはない!」
「胸張って言えるようなものじゃないだろ。
というより、心当たりが無いなら、尚性質が悪いわ」
「う〜〜〜〜〜ん……一体何が原因なんだ……?」
「私が聞きたいぐらいだ」
頭を抱えながら、机の上で再び突っ伏したゼロの言葉に同意するかのように、
ディードが呟く。
城外に吹き荒れる風は強く窓を叩き、一部では心霊現象などと囁かれている。
その中で、何処か暗い場所で彼女がすすり泣いていたなどと、誰が思うだろうか――?
+ + + + +
一歩外に出ると、ラクロア全土に吹き荒れている暴風は木を
なぎ倒さんばかりに強く打ち付けている。
そのせいか、木々の枝より咲き乱れている濃緑の葉が乱暴に宙を漂っている。
中庭に続く渡り廊下を歩きながら、しかしその歩調はいつもよりも荒々しい。
ダークアクシズの手により、崩壊したラクロアの復興(指示された箇所)を終えるなり、
トールギスはラクロア全土に巻き起こっている暴風の異変に気づいて、
すぐさま彼女が隠れていそうな庭園を目指す。
「パラム……」
庭園に足を運び、幾度か角を曲がったところで、トールギスは立ち止まり、
生い茂る木々に向かってそっと声をかけた。
ピクリ、と木々の梢が揺らいだ。
「なにを拗ねている?」
トールギスの質問に答えるようにして、そわそわと梢が鳴る。
そこから通じて伝わってきたパラムの意思に、ふむ、と頷いてみせた。
「それはすまなかった。だが、安心しろ、もうハイトとは縁を切って――」
唐突に風が強く吹き荒れ、トールギスのマントを大きく靡かせる。
ばさばさ、と余韻を残しながら、静かに下ろされるマント。
「パラム……」
もう一度呼びかけると、次は小さくすすり泣く声が聞こえた。
とても小さく、周囲が騒音で満ちていたなら、決して聞き取ることが出来なかっただろう。
――それ程までに彼女の口から零れている嗚咽の声は小さく、弱々しい。
トールギスは木々の葉を掻き分けて、芝生の上で蹲っている少女を見つけた。
抹茶色の髪が湿気の多い風に煽られ、宙を漂う。
白いワンピースから突き出た白い手が小さな顔を覆い、指の空いた間からは
光り輝く雫が落ちていくのが見える。
「……………………」
正直、怒っているのかと思った。