短編U

□微笑む風
2ページ/4ページ



「だが、実際に姿を現していないんだろう?
お前が知らない内にパラムを傷つけたんじゃないのか?」

「安心しろ! 心当たりはない!」

「胸張って言えるようなものじゃないだろ。
というより、心当たりが無いなら、尚性質が悪いわ」

「う〜〜〜〜〜ん……一体何が原因なんだ……?」
「私が聞きたいぐらいだ」

 頭を抱えながら、机の上で再び突っ伏したゼロの言葉に同意するかのように、
ディードが呟く。


 城外に吹き荒れる風は強く窓を叩き、一部では心霊現象などと囁かれている。
その中で、何処か暗い場所で彼女がすすり泣いていたなどと、誰が思うだろうか――?



+ + + + +




 一歩外に出ると、ラクロア全土に吹き荒れている暴風は木を
なぎ倒さんばかりに強く打ち付けている。
そのせいか、木々の枝より咲き乱れている濃緑の葉が乱暴に宙を漂っている。
中庭に続く渡り廊下を歩きながら、しかしその歩調はいつもよりも荒々しい。


 ダークアクシズの手により、崩壊したラクロアの復興(指示された箇所)を終えるなり、
トールギスはラクロア全土に巻き起こっている暴風の異変に気づいて、
すぐさま彼女が隠れていそうな庭園を目指す。


「パラム……」
 庭園に足を運び、幾度か角を曲がったところで、トールギスは立ち止まり、
生い茂る木々に向かってそっと声をかけた。
ピクリ、と木々の梢が揺らいだ。


「なにを拗ねている?」

 トールギスの質問に答えるようにして、そわそわと梢が鳴る。
そこから通じて伝わってきたパラムの意思に、ふむ、と頷いてみせた。


「それはすまなかった。だが、安心しろ、もうハイトとは縁を切って――」

 唐突に風が強く吹き荒れ、トールギスのマントを大きく靡かせる。
ばさばさ、と余韻を残しながら、静かに下ろされるマント。


「パラム……」

 もう一度呼びかけると、次は小さくすすり泣く声が聞こえた。
とても小さく、周囲が騒音で満ちていたなら、決して聞き取ることが出来なかっただろう。
――それ程までに彼女の口から零れている嗚咽の声は小さく、弱々しい。


 トールギスは木々の葉を掻き分けて、芝生の上で蹲っている少女を見つけた。
抹茶色の髪が湿気の多い風に煽られ、宙を漂う。
白いワンピースから突き出た白い手が小さな顔を覆い、指の空いた間からは
光り輝く雫が落ちていくのが見える。


「……………………」

 正直、怒っているのかと思った。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ