短編U

□微笑む風
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 ラクロアの気候はマナの感情によって変わる。
例えば水のマナの意識集合体の機嫌が良ければ、ラクロア全土が快晴となり、
大地のマナの意識集合体の機嫌が悪ければラクロア全土を大地震が襲う。

 そんな不安定であり、安定されてもいるラクロアにいるマナ達の中で、
頻繁に人前に姿を顕現していた意識集合体がいる。



微 笑 む




 ガタガタ……。


「……はぁ」

 城外に吹く風が窓を叩く音に耳を傾けながら、
ディードは手に持っていた羽ペンをくるくると回した挙句、ポンと書類の傍らに置いた。


「どうした、ディード、溜息なんかついて」

 ディードに視線を送ることなく、ゼロがパラパラと手元の書類に目を通し、
また1枚と捲っていく。


「どうしたもこうしたも、ここ最近荒れた風しか吹かない。
これが自然的なものではないということぐらい、お前もいっているだろう。
というより、風はお前の分野だから、なんとかしろ」

「なんとかしろと言われても……」


 困ったように苦笑しながら、ゼロはとりあえず荒々しく窓を叩く風に視線を移した。
今にも割れんばかりに強く窓を叩く風の強さは異常だ。
嵐の前兆とも言っていいが、空は相変わらず青い。


「風といえば、パラムか……」

 マナの意識集合体の中で、唯一頻繁に人前に姿を現すマナが
風のマナの意識集合体であるパラムだ。
パラムは気紛れな性格で自由奔放ではあるが、人懐こく、
誰にでもすぐ好意を抱く心優しい性格の持ち主なのだが――。


「この風の荒れ方はパラムが相当怒っているか泣いているかだな」
「それまで把握しているなら、なんとかしてくれ。この暴風でリリが困っているようだ」

「それがなァ……」と続けながら、ゼロは机の上に突っ伏した。
ゴロリと顔の向きを変え、深々と溜息を吐く。


「パラムに話しかけても、あの子はすすり泣くだけで、碌に姿を現してはくれんのだ」
「嫌われたか、遂に」

「バカなッ!」
 否定の言葉を投げかけながら、ゼロはガタンッと椅子から立ち上がった。
それから、ディードを睨むように見つめ、言いかけた言葉を放つ。

「パラムは私が信頼出来るマナだ! それに、あの子は人を安々と嫌ったりしない!」



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