短編U
□時雨ときどく優しさ
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(うわ〜、これ装甲外したら大変なことになりそう……)
装甲の裏側にまで侵蝕している。錆びることはないだろうが、少々動きが鈍くなることは間違いないだろう。
水を含んで重くなったタオルを軽く絞っただけで、そこから大量の水が滴る。
「…………………………。
マドナッグ、新しいタオル、ちょうだい」
ん、とマドナッグは棚から引き抜いたタオルを投げ渡す。
ありがと、と短く謝礼を言いながら、ガンイーグルは再び装甲の隙間に侵蝕している水を拭う。
「そういえば、お前はなんでここにいるんだ? キャプテンの代わりにシュウトの家に行かないのか?」
「この雨でネオトピア全域にどんな影響が出ているか監視しなければならない。
それにキャプテンの代わりといっても、私はキャプテンのデータを基に造られた後継機であって、『彼』ではない。
彼でアレにしてやれることと、私がしてやれることとには格差があるだろう」
峻拒したマドナッグは、しかし何処か寂しげに声色を宿していた。
ガンイーグルの脳裏にキャプテンから聞かされたマドナッグの経緯を思い出すが、彼から視線を逸らすようにして泳がせた。
「そっか……ごめん……」
「そなたに謝罪される理由が分からない。私は事実を言ったまでだ」
「それでも、ごめん……」
少々伏せがちになった視線の上で、マドナッグが深く溜息を吐いたのが分かる。
加えて、恐らく呆気を含んだ眼差しでガンイーグルを見ているだろう。
「そなたが何に対して謝っているかは理解不能だが、これだけは言っておく。
――私はもう、キャプテンを憎んでなどいない」
「!」
弾かれるようにガンイーグルは伏せていた視線を上げた。
「確かに私は――私のいた世界のキャプテンからは見捨てられたが、この世界のキャプテンには『生きろ』と言われた……」
マドナッグは語りながら片手に持っていた報告書をテーブルの上に置く。宙を見つめていた紫の双眸が、悲愴を帯びる。
「殺したいほど憎かったはずなのにな……」
伸ばされた手を払おうとした――<死>を選びたかったのに、キャプテンはそれを否定した。
払おうとしていた手を掴み、必死にマドナッグを<生>へと誘っていく。
結果、マドナッグの命はこうして彼の生まれる過去へと繋がれている。
ガンイーグルは自分のことでないのに、まるで自分が褒められたような気がして小さく笑った。
「なんかそれ聞いたら安心したッス。
なんだかんだ言いながらマドナッグもやっぱりキャプテンが好きなんスね〜」
和気藹々とした態度で言うと、一瞬にしてマドナッグの頬に赤味が差す。
絶句した彼はとりあえず、驚愕の色を宿した瞳をガンイーグルに向ける。
それから、慌てて言い繕うとして口を開いた。
「私は、ただ――!」
「はっきり言って、俺も負けないッスよ! いくら後継機でも、俺は手加減しないぜ!」
タオルを握り締め、もう片方の手でビシッとマドナッグを指すガンイーグル。
何処か昂然たる態度に、マドナッグは憤りより呆れが宇和待って、溜息を吐く。