短編U

□時雨ときどく優しさ
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雨 ときどき しさ





 6月は梅雨前線がやってくるため、季節的に最も雨が大量に降る月である。
気候が不安定であるため、ネオトピアの街中を行き来する人々の片手には、常に傘が所持されている。
その梅雨前線の影響で海の水嵩が高まったりするが、そこはガンダムフォースの中で
海戦専用モビルディフェンダー・ガンダイバーズの働きによって、街に侵蝕することはない。

 今のところ、それ相応大きい被害は出ていない。

「まあ、重畳といったところだろう」

 ブランベースの一角に設けられた談話室にして、マドナッグは現在状況が書き示された報告書に目を通していく。

 その時、パタパタという水音を立てながら白い影が扉の無い、談話室に入ってくる。
マドナッグは紫に染まった瞳を視界の端に持って行き、入って来た影を見遣る。


「うひゃ〜。もう、ありえないって! なんで、こんな悪天候の日にパトロールなんか……」

 談話室に入った瞬間、それの足が止まったことで点々としていた雫がその場を中心に滴る。


「空はそなたの縄張りだろう、ガンイーグル」

 愚痴るように口走ったガンイーグルを横目で見遣りながら、マドナッグはぴしゃりと言い捨てる。
――と、ガンイーグルはマドナッグを見た途端、露骨に嫌な顔を浮かべた。


「キャプテンでなくて悪かったな」

「べ、別にそんなこと言ってないだろ! 大方、シュウトの家に行ってるんだから!」

「そなた、今朝の招集での話、聞いていたか?」

「へ……?」

 溜息交じりに告げられたマドナッグの言葉にガンイーグルは思わずきょとんとした顔を浮かべて、間の抜けた声を出した。


「キャプテンは暫く、遠方の街に出張すると言っていただろう」

「あ……」

 今朝の召集でのことを思い出したのか、ガンイーグルが小さく声を上げる。
そんな彼をよそに、マドナッグは棚から真新しい質の良いタオルを抜き取って、ガンイーグルに向かって投げた。
反射的にそれを受け取ったガンイーグルの表情が訝しげに歪む。


「洗浄するからといって、濡れたままでは関節機器が錆びる。
そうなれば、カオ・リン主任に負担がかかるだろう」

「あ、ありがとう」

「別に……私は効率の良い方法を選んだだけだ」

 ガンイーグルの謝礼を、素っ気ない一言で両断し、マドナッグは再び報告書に視線を滑らせる。
その時、ガンイーグルの額に青筋が浮かんだことは、マドナッグは知る由もない。


 一方のガンイーグルはマドナッグから手渡されたタオルで濡れた装甲を丁寧に拭いていく。
ネオトピアの上空に漂う雲の上から巡回する訳にもいかず、仕方なく雷が轟き、大量の雫が降り注ぐ、
地上に近い空から巡回したのだ。
その結果、装甲の隙間を縫って雫が流れ込んでいた。



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