短編U

□勝負の最果て
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「それより、いっちょ勝負でもしねェ? 
お前、復興作業とかで忙しいのは分かるけど、勝負なんて2年もやってねェんだし」
 ってか、2年間オレ石になってたし、と続けると、トールギスは薄く笑った。


「良いだろう。ただし、ノルシア、手加減はなしだ」

 宙に手を滑らせると、彼の手に刃幅が拾い大剣が握られる。
ノルシアも己得物を鞘から抜き出し、鷹揚に笑ってみせた。


「一度も手加減なんてしてなかったと思うけど?」

「お前はな。俺はしていた」

「そりゃあ、初耳だなァ――っと!」

 ノルシアは足を一歩踏み出し、一気にトールギスとの間合いを縮めた。
中段に構えた剣を横殴りになぎ払う。
トールギスはそれを流すようにして、刃を滑らせた。]
刃が交えたことを知らせる乾いた音が2人の耳朶を打ちつけた。



+ + + + +




 異国の治安を見るために天宮(アーク)から見学がてらにラクロアに滞在している騎馬王丸は、
ようやくなれた王城の回廊を歩く。
天地城とは違う構成で作り上げられた異国の城の出来栄えに、最初は驚いたが、
地図を頭に叩き込めばすぐに慣れた。


「これはこれは、騎馬王丸殿」

 む、と騎馬王丸は足を止め、声が飛びかかった方向へと視線を滑らせた。

 日の届かぬ回廊の陰から見慣れない装甲を持ち得た騎士がやってくる。
騎馬王丸は彼の仮の姿を飽きるほど見ているためか、どうも本来の姿を見てもピンッと来ないのだ。


「デスサイズか」

「今の姿はディードです。まあ、捨てた名ですがね」

 デスサイズ――ディードは自嘲気味に笑んだ。


 騎馬王丸は改めてディードとなった彼の姿を見た。
黒を主張した色合いは相変わらずだが、デスサイズと名乗っていたときと比べて禍々しさが消えている。
仮面と、外套のように纏っていた翼がないからか。


「どうですか。ラクロアでの生活には慣れました?」

「あ、ああ……」

 曖昧な言葉だが、しっかりと肯定の言葉を投げかけて騎馬王丸は回廊から見える空を仰いだ。
白雲が漂う空は清々しい程青く、天宮(アーク)と同じ色をしている。


「何故、この国はダークアクシズに堕ちたんだろうな?」

 騎馬王丸は我知らずの内に呟いた。

 最初は国そのものに力がないから負けたのだと思っていた。
だが、違った。力は十分すぎるほどあった。
ディードの裏切りやトールギスの復活――そういった不意を突いたところで、戦況は覆せばはずだ。




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