短編U

□勝負の最果て
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「ぅわっ!」
 騎士が驚いた声を上げて、意識を現実に引き戻したのが分かった。

「え、あ……」と、どういう言葉を出したら良いか分からない騎士の助け舟となるように、
ノルシアは笑ってみせた。

「今日の訓練はこれでおしまい。あとは自主練な」

「あ、はい」

 ノルシアの手を借りて立ち上がった騎士は気まずそうな視線でトールギスを見る。
彼もまた鋭い光輪宿した瞳で見返すと、騎士は萎縮したように身を竦めた。

「あ、ありがとうございました」

 頭を下げ、いそいそと踵を返す騎士の背中を見送りながら、
ノルシアは溜息を吐いてトールギスを振り返った。


「トールギス……お前、本当相変わらずだな」

 苦笑を滲ませながら、ノルシアは改めて同僚を見た。


 ガンダム族ではないということで騎士団に入れず、国王の覇道を極めようとした騎士。
そんな彼を半端者の目で見ない唯一の例外がノルシアだった。


 トールギスは不機嫌そうにふん、と鼻を鳴らす。

「俺はただ一目くれてやっただけだ。あっちが勝手に怯えたんだろう」

 確かに一理ある、とノルシアは呟いた。


 トールギスは過去二回ほど叛乱を起こした無法犯だ。
本来はラクロアからの永久追放はおかしくないが、国王がそれを止めた。
復興の労働を強いることを条件に、国王はデスサイズ――ディードと共に彼をラクロアに置いた。


「ノルシア、お前も物好きだな。
あんな大した力もない騎士を育て上げる役目など、安易に務めるな」

 ノルシアは一瞬、彼から何を投げかけられたのか分からなかった。
きょとんとした顔を浮かべて、数度瞬きを繰り返す。


 一向に理解の色を宿さない同僚を見遣り、トールギスは呆気を含んだ溜息を小さく吐いた。

「いくら人手が足りないからとはいえ、お前が全て背負う必要は無い。
そのままだと、いつか倒れるぞ」


 予想だにしていなかった同僚の励ましの言葉に、思わず噴出して笑いを堪えるノルシア。
無論、その直後にトールギスに額に青筋が浮かんだのは言うまでもない。

「いや、ごめんごめん。心配してくれてんのね、サンキュ」

「誰がお前の心配なぞするか」

「違うのかよ!」
「当たり前だ」

 呼応するように、トールギスは即答した。
嘆息しながら、片目を眇め、ノルシアを見る。

「お前が倒れたら、その役目が俺に回ってくる」

「あー、それは無い。ないから安心しろ」

 いくら人手不足であっても、新米騎士たちの精神をいたぶるような真似は、いくら王とてやらないだろう。
精々ディード以外の親衛隊に任せるはずだ。




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