短編U

□奏でられる旋律と思いやる気持ち
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「天宮(アーク)の兵士配賦について、少し報告しなければならないことがあってな」

「何か不都合でも起きたか?」
「不都合と言おうか……、天宮(アーク)の戦況に応じて騎馬王丸から
兵士の支給を頼まれているが、このままのペースではザコ達の数が尽きる」

「む……」

 短く声を発し、ガーベラは工具を部品の傍らに置いた。
指先で固定台を叩き、思案顔を浮かべる。


「……やはり質より量では限界があるか」

「コマンダーの部隊より幾らか削ぐか?」

「いや、必要ない。ザコ以上の力を持つ戦力なら幾らでもある」

 その言葉を聞き、ノイエ・ジールは固定台の上に置かれている備品――新しい兵器に視線を滑らせた。


 未来のネオトピアの技術で作られた己の力を最大限に活用させたガーベラならではの役目だ。
そして、自分はそんな彼の死せる運命(さだめ)を監視し、阻止する本来の仕事がある。

 ノイエ・ジールはモノアイの裏に隠れている本来の瞳を一度伏せるようして閉じると、
すぐにノイエ・ジールとしての態度を切り替える。


「なのば、騎馬王丸が指示したとおりの数を天宮(アーク)に送るが、異論は無いな?」

「数は?」
「およそ1000近く」

 呼応するようにして答えると、すぐにガーベラの溜息が返ってきた。

「デスサイズとは違い、騎馬王丸は要領が悪いな。前も1000ではなかったか?」

 質問のような言葉にノイエ・ジールは手元の書類を一枚捲った。
そこに綴られている総合配賦数は確かに1000だ。

「騎馬王丸はデスサイズとは違って、真っ向から勝負する性分。
故に実力での征圧が望ましいんだろう」

「私が望むのは征圧ではなく、飽く迄もジェネラル復活のための養分となる
武者ガンダム――いや、正確にはガンダムミウムを持ったもの全てだ。
一刻も早くジェネラルを復活させなければならない」

「何をそんなに急ぐ? それ程までに、世界が憎いか」

 ガーベラはモノアイに鋭い光を宿し、ノイエ・ジールを睨んだ。
真っ向から感じられる威圧感を前にしても、ノイエ・ジールは動じる素振りを見せずに、むしろ見返す。


「憎いな。
自分の利益のために小さな命すらも顧みないニンゲンが作り出した世界など、滅んで当然」

 痛烈な訴えのように聞こえて来たガーベラの言葉に、
ノイエ・ジールは静かに目を伏せ、そうか、とだけ答える。


 捲った紙を戻し、ノイエ・ジールは何も言わずして体を反転させた。
個室から立ち去ろうとしていた彼の背に、ガーベラの静かな声がかかる。

「気遣いをかけてすまん、ノイエ……」

「何を今更……例を言われる筋合いは無いだろう。
こちらは、そのために造られ、存在しているだけに過ぎん」




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