短編U

□奏でられる旋律と思いやる気持ち
1ページ/8ページ



でられる旋律といやる気持ち




 〜♪ ――♪

 小さな箱から静かな旋律が奏でられる。
プランベースに設けられた個室でオルゴールの音色に聞き入っていた
レアヴァーナの表情がふと和らいだ。


「レアヴァーナってホント、オルゴール好きッスよね」

 旋律の合間に滑り込んできた声音を拾い上げ、レアヴァーナは無を突き通した
眼差しを個室の扉に向けた。
いつからいたのか、数枚の書類を片手にガンイーグルが入室していた。


「ノックはしたッス。でも、返事が無かったから、いないのかなって」

「それはこちらの落ち度だったな」

 言いながらレアヴァーナは箱の蓋を静かに閉じた。
同時に奏でられていた旋律も止まり、間もなく個室に静寂が訪れる。


「誰からの書類だ?」

 オルゴールの箱を見つめていたガンイーグルは投げかけられた言葉にハッとなり、
慌てて、自分の手元にある書類に視線を落とした。


「カオ・リン主任とハロ長官から、半々に」

「……そうか」

 す、と手を差し出し、ガンイーグルから書類を受け取るレアヴァーナ。
オルゴールの箱をテーブルの隅に置き、渡された書類を手際よく広げて素早く目を通してから、
棚に置かれた過去のデータファイルを、空いているスペースに置いて広げる。

 思わず見惚れてしまいそうな軽やかな動作に釘付けになっていたガンイーグルは
ふと、テーブルの隅に置かれたオルゴールに視線を移した。


 箱自体豪奢とはいえないような粗末な造りだ。
模様が刻まれているが、宝石とかそういった類のものは何一つ付けられていない。
傍からみれば、安物の類に入るだろう。


「いつも思うんスけど……」

 言いながらガンイーグルはレアヴァーナの個室を見回した。
視界には必ずといっていいほど、オルゴールの箱と思われるものが入り込んでくる。
小さいものから、グランドピアノを象ったものまで、形は様々だ。


「レアヴァーナってなんでそんなにオルゴール好きなんスか?」

 ピタリ、とレアヴァーナの手が止まった。
同時に表情も硬くなる。


 それを視界の端で捉えたガンイーグルは訝しげに首を捻った。
何か拙いことも聞いただろうか――?

 数秒という短い沈黙を経て、レアヴァーナは短く溜息を吐いた。
テーブルに肘を立てて、覆うようにして額に手を当てる。


「たまに自分で造ったりもするが、過半数プロフェッサー――マドナッグからの貰い物だ」

「へー……」




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ