短編U

□迷える覇者
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「まったく、お前には敵わんな」

「幼少の頃よりお前と共にいて、ましてやこっちはお前の恋路の後押しもしてやったんだぞ?」

 パチン。

「後押しの件は頼んだ覚えはないんだが……」

 パチン。

「まあ、友の善意だ。ありがたく貰っとけ。
――まあ、式まで挙げるに至らなかったが、お前は息子という家宝を手に入れた」

 その言葉に騎馬王丸の脳裏を、幼いながらも天宮(アーク)を巡っていた元騎丸の姿が横切る。
最初は愛した人が生んだ子とは知らず、大神将の鍵として必要だった。


「アレは、なかなかお前のことを『父』とは呼ばないか?」

 パチン、と将棋盤の上に駒を置く同時に、覇王丸はそう言い放つ。
その言葉に半ば呆けていた騎馬王丸の意識が現実に戻り、すぐにああ、と頷いて応じる。


「アイツは――」

 駒を将棋盤の上に乗せながら騎馬王丸は静かに語り始める。

「元騎丸は死ぬまで俺を『父』として呼ばず、またそんな目で見てはくれんだろう。
天宮(アーク)の統一を目指すのはアレのためだったといっても、聞いてはくれまい」

 覇王丸はつと手を止めた。


 騎馬王丸がダークアクシズに力を借りてまで天宮(アーク)を手に入れようとした理由は
実にシンプルで単純なことだ。
騎馬王丸自身もそれを望んでいたことには変わりないが、
何より一番の理由は彼の妻である陽騎妃のためである。


「陽騎妃――アレの最期を看取ったそうだな」

 騎馬王丸は悲しそうに目を眇めて覇王丸を見る。

 覇王丸はああ、と答えながら、駒を盤上に置く。


 目を閉じればすぐに脳裏を横切る一場面。
彼女の息子である元騎丸と共に彼女の最期を看取った。
弱々しく伸ばされていた手は元騎丸が握り返し、半ば虚ろだった瞳は覇王丸を捉えていた。


『覇王の……もし、騎馬王が道を違えてしまったら、
……私の代わりにあの人を支えてあげて……』


 覇王丸に投げかけられた言葉は弱々しく、とても儚げだった。


「支えてやれっつったって、結局俺、何もしなかったしなァ」

 扇子を広げて自分の顔を扇ぐ覇王丸は何処までものんびりとしていた。


 武里天丸と騎馬王丸が天宮(アーク)の指導権を懸けて戦を繰り広げていたことは覇王丸も知っていた。

 しかし、覇王丸はまるで他人事のように傍観を決め込んでいたのだ。
大将軍になるのが武里天丸だろうが、騎馬王丸だろうが、彼にとっては
天宮という世界が崩れなければ誰だっていい。


「ところで、リリジマーナ嬢の提案でラクロアに行ったんだろう?」

 バサ、パチン――と、扇子を広げたり、畳んだりということを繰り返しながら訊ねると、
騎馬王丸は「あ、ああ」と歯切れの悪い言葉を返した。気にすることなく、
覇王丸は引き続き問う。





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