短編U

□迷える覇者
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える覇者



 天地城から見える天宮(アーク)の大地はラクロアより比べて平穏なものだ。
そよ風に遊ばれて適当に生えていた草花が揺れる。
そんな和やかな後継を目にしながら、覇王丸はふと目元を緩めた。


「あれから1年ね〜」

 ダークアクシズとの激闘を終えて早1年――各世界は名何事もなかったかのように
平穏な日々を過ごしているが、ダークアクシズが残していった傷は大地と共に
人の心に深く刻んでいる。
恐らくその傷は生涯、消えることがないだろう。


 パチン――片手で弄っていた扇子を畳み、同時に物静かな音を立てて妻戸が開く。
そこに立っていた人物を視界におさめると、一瞬軽く目を見張り、やがて微笑んだ。


「珍しいな。どうした、騎馬王? 
お前からここに来るなんて、天変地異の前触れもいいとこだ」

「喧嘩を売っとるなら、高く買ってやるぞ?」


 軽く口走った時点で冗談だということが分かるが、
相手は一時的でも天宮(アーク)の指導権を巡って争っていた武者軍の頭領・騎馬王丸。
覇王丸でなければ、この場で切り捨てられていたところだ。


 覇王丸は扇子を広げては、それで口元で覆い、くすくすと笑い始める。

「相変わらず冗談が聞かない奴だな。――で、なんだ?」

「いや、久々にお前と将棋でもしようと思ってな」

 覇王丸はきょとんとした顔で騎馬王丸を見返した。
口元を覆っていた扇子を閉じ、ふっと笑みを浮かべる。


 それだけで覇王丸の承諾を得たと悟った騎馬王丸は軽く手を叩き、
ザコブッシ達に将棋盤を用意させた。
1体のザコブッシが用意した将棋盤を挟んで騎馬王丸と覇王丸が向き合うようにして座る。


「先手はお前からで構わん。
誘った手前、それを承諾した方を先手とするのは世の習わしだ」

「習わし――と言おうか、なんと言おうか……、
まあ、お言葉に甘えて先手を取らせてもらうがな」


 言うが早いか、覇王丸は駒の一つを手に撮り、パチンと将棋盤の上に乗せた。
呼応するように騎馬王丸も駒を進めた。


「将棋以外に用があるんだろう?」

 前触れもなく、覇王丸が唐突に訊ねると、一瞬だけだが騎馬王丸がぴくりと反応する。
しかし、彼は何他人事のように覇王丸の言葉を受け流す。


「お前と何十年も付き合ってちゃあ、嫌でも察せられるって」

 パチン、と駒を将棋盤に乗せて、で、と言葉を投げかける。

 暫く沈黙を保っていた騎馬王丸だったが、やがて深い溜息を吐いて覇王丸の質問に応じた。




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