短編U

□奏でられる前奏曲
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「リレイズ……」

 鈴のような綺麗な声が、たった一言の呪文を紡いだ。

 すると、何処からともなく舞い降りてきた一枚の羽根が淡い光を伴って
2人の使いの身体の中へと沈んでいく。
間もなく、虚空を見つめていた2人の目に光が宿り、光皇を捉える。

 光皇は慈しむようにして、己の力を削ってまで作り上げた使いを抱き締める。


「覆すは、世界が定めた死せる運命(さだめ)……」

 2人を抱き締めたまま、光皇は最後の仕上げである言葉を紡いだ。
使いの2人はピクリと肩を震わせると、すぐに頷いて了承する。

 光皇は2人から離れると、まず白と黒でカラーコーティングされた重装備のメカ生命体を見た。


「レアヴァーナ――、ぬしはマドナッグの傍らで、かの者の行動を監視せよ。
こちらが視た定めの時が来るまで、かの者を死せるな」

「御意に」


 次に光皇は隣に立つ白と青のカラーコーティングされたメカ生命体を見た。

「クァシエ――、ぬしはレアヴァーナの指示のもと、下層部全てを監視せよ。
予知とはいえ、絶対ではない。
死せる運命(さだめ)に定まられた者がいたなら、それを覆せ」

「了解(イエス)」


 参れ、という光皇の指示のもと、2人の使いの姿は音もなくして消えた。

 残された光皇は再び椅子に腰をかけ、肘掛に肘をつけて掌は目元を覆う。
掌の裏で、彼女は真紅の瞳を再び瞼によって閉ざす。


「……世界は望んでいないかもしれないが、こちらはかの者の生を、僥倖が溢れる未来に繋げたい」

 繰り返される憎悪の連鎖。それを断ち切ることが出来るのは誰であれ、世界が認めた光の化身。

 光皇は閉ざしていた瞳を開き、自分の両手に視線を落とした。
稀にぼやけて視界に映りこむ己の手。


 意識だけ存在している自分に肉体は存在しない。
肉体は、とうの昔に滅び、今や魂も己の遺志を継いだ子孫と共有して、
この空間から出ることが出来ない。

 故に、光皇は使いを作り上げた。


 自分の代わりに定められた運命(さだめ)を覆すための存在。
偽りの光の化身。


「かの子にも、知らせばならないな……」

 この一件を――。





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