短編U

□奏でられる前奏曲
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でられる奏曲‐プレリュード‐



 パチパチ……暖炉の中で燃え盛る炎は静まることを知らない。

 空気を焦がし、揺らぎながら炎は意気盛んに生き続ける。


 安楽椅子に腰をかけ、背もたれに体を預けながら、
まどろみに意識を放り出していた光皇はつと瞼を薄く開けて虚空を睨む。
固く閉ざされていた唇から薄く嘆息が零れた。


「休ませてくれる時間さえくれぬか、世界は……」

 愚痴るように呟き、パチンと指を弾く。
すると、暖炉の前に置かれたチェス盤の頭上の空間が揺らぎ、
不気味な色合いを持った球体のような形を象った空間が現われる。
そこに映し出された光景を目の当たりにし、光皇は顔をしかめる。


 映し出された光景は「残酷」という一言では足りないほど、酷い状況になっていた。
草木は石化し、大地はひび割れ、蒼穹たる空は重々しい雰囲気を漂わせた闇色に染められている。


「昔は、自然で豊かだった国が……随分、変わったものだ」

 悲痛が滲んだ紅い双眸で光景を見据え、
――不意にその目は鋭い光をもって細められた。

 光景は一変してある一室が映し出される。
そこは床の殆どを溶鉱炉で埋め尽くし、咆哮のような唸り声が度々間を空けて轟く。


 浮遊している固定台から一体の黒い装甲を持ち得たメカ生命体が飛び降りる。
そのまま落下すれば溶鉱炉に落ちるだろう。


 しかし、それを白と金でカラーコーティングされたメカ生命体が、彼の手を掴んで引き止めた。
黒いメカ生命体は眼を見開き、ひどく驚いた顔で自分の手を握る相手を見つめる。


「嘘だ……」

 黒いメカ生命体の口から、無意識の内にそんな言葉が零れる。


「嘘だぁあああああ!!」

 言うが早いか、彼は自分の手を握っていた相手の手を弾いた。
2人の手が離れ、叫んでいた彼の体は重力に従って落ちていく。
紅い水柱が立ち、白い煙が立ち上る。


 ――光皇は、目元を手で覆うと視線を伏せた。

「……未来永劫、定められた運命(さだめ)は死せるもののみ、か」


 この先の未来で、彼はもう一度生まれるだろう。
だが、世界は彼を見捨てる道を選ぶ。彼は最後の最期まで世界を憎んだ、自分を見捨てた世界を。
哀れみを覚えてしまうほど、悲しい勘違いをしたまま。


 伏せていた目を一度瞼で覆い、光皇は空いている片手を伸ばした。
虚空に向かって少し広げた掌の中に淡い光が集い、薄く開かれた唇から歌のような言葉が紡がれる。
呼応するように光は二つに分かれ、暫く虚空を漂うと、人型の姿を象って床に足をつかせる。


 淡い光で身を包んでいた二つの人影は、次の瞬間、それ相応の色合いを持って確固たる姿を顕現させた。
1人は白と青がカラーコーティングされ、それ程厚くない装甲で身を包んでいる。
比べ、隣に立つもう1人は白と黒でカラーコーティングされ、厚い装甲で身が覆われていた。


 身体は構成した。あとはその身に宿る命――。

 瞼を上げ、血のような鮮やかな紅の双眸で2人の使いを見据えると、目を眇めた。



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