短編U
□見えない絆
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「ありがとう、白。でも、大丈夫――といいたいところだけどね……」
笑いを含んでいた口調に苦笑を滲ませて、アルシスはチラリっと視界の端で
中庭で寝そべっている大型犬型のモビルディフェンダーを見た。
「まだ大仕事が残っていてね」
柔らかい笑みが瞬く間に苦笑に変わっていくのを見て、
白はアルシスと同じ方角に視線を滑らせた。
「ケヴェルトの散歩、ですか?」
一拍の間を置いてから、アルシスは頷いた。
ケヴェルトはほぼアルシスの趣味に合わせて造られたモビルディフェンダーだ。
警察犬のような役目は勿論するものの、平和なネオトピアでは殆どケヴェルトの出番は無い。
たまに地上に降りて散歩してやらねば、ケヴェルトも体が鈍ってしまうだろう。
だが――。
「生憎ケヴェルトの散歩を唯一こなせるキャプテンがいなくてね」
何処からとも無く流れる汗を拭い、アルシスはどうしたものかと首を捻る。
ケヴェルトの図体は大型犬のそれを遥かに超す。はっきり言って、
人一人は軽く背に乗せられることが出来る大きさだ。故に持っている力も半端ない。
ケヴェルトの散歩は週に1回『ガンダムフォース』内で、
ローテーションで繰り返されるが、キャプテン以外、
無傷でケヴェルトの散歩をコンプリートした者はいない。
興奮するあまり暴走してしまうケヴェルトのストッパーとして
キャプテンが付き添うことになっているのだが、今日に限ってキャプテンは遠出している。
ちなみに今回の担当は言うまでも無く白だ。
白はキャプテンのデータを基に造られたとはいえ、キャプテンと比べると
まだまだ不十分な箇所が幾つか存在している。
「今日ばかりは『ガンダムフォース』全員で出すしかないかな?」
額に手を当て、深いため息を吐くアルシスを見て、白はニコリと笑った。
「大丈夫ですよ、アルシス設計長。私、彼と一緒に行きますから♪」
+ + + + +
「で――、なんで私なんだ?」
ケヴェルトと共に地上に降り立って、すぐさまガーベラは白に向かって疑問を投げかけた。
片手には白から渡されたケヴェルトの手綱がしっかりと握られている。
「黒が一番暇そうにしていたからです」
白はガーベラの言葉に対して即答した。
「暇では無い。アルシスが考えた設計を基に、
新しいモビルシチズンを開発しようとしていた」
「では、その当の設計図を持たずにメインエリアの庭にいたのは何故です?」