短編U

□心安らかなる一時
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らかなる一時   





 ダークアクシズ要塞の廊下にて、
管轄長(主に各部隊に兵士を配分したり、ラクロアを監視したりする仕事)を担う
ノイエ・ジールは、とてとてと小走りで駆け寄ってきたザコソルジャーからの話を聞いた。

「ノイエ・ジール様、プロフェッサー・ガーベラ様はちゃんと休んでるザコ?」

「そのはずだ。ジェネラルと対面する際、睡眠不足で倒れては困るからと、
こちらが毎度の如く差し入れのコーヒーに睡眠薬を混ぜ込んでいる」

 それを訊いた途端、質問を投げかけたザコソルジャーの表情が微かに引きつったが、
ノイエ・ジールはあえて見ないふりをした。

「それがどうかしたか?」

「なんかプロフェッサー・ガーベラ様、最近疲れてる様子ザコ。
さっきも見かけたザコが、足元が危なかったザコよ?」

「なに……?」

 ノイエ・ジールはモノアイから発せられる光を不機嫌そうに濁らせた。
あのプロフェッサーが、寝不足――?



 嫌な汗が流れ落ち、――気づけばノイエ・ジールはガーベラ個人が使用している個室へと駆けていた。

 バタン!


「プロフェッサー!」


 扉を荒々しく開き、新しく開発していたフライングボートを調整していたガーベラを呼びかける。

「なんだ、ノイエ・ジール。お前が気性を激しくするなど珍しいな」

 ガーベラはノイエ・ジールに目もくれず、開発に専念していた。
その口調は冷静としたものだが、微かに疲労感が滲んでいる。


「本日の睡眠時間は?」
「2時間」

 相手がノイエ・ジールだと分かって答えているのか。
即答と言うべき早さで答えたガーベラの声には一切の迷いはなく、ごく当然だと言わんばかりな態度。
ノイエ・ジールは喉元まで着ていた溜息をぐっと飲み込んで、
代わりにモノアイを剣呑に細めてガーベラを見た。

「昨日も今日も、差し入れにコーヒーを渡したよな?」

 睡眠薬を入れたコーヒーを、ガーベラは確かに受け取った。
だが、ノイエ・ジールは仕事の都合上、ガーベラがコーヒーを飲むところまでは見ていない。


「私のことを心配しているのは分かるが、何も睡眠薬を入れなくとも良いだろう。
一体、どれぐらい入れたんだ? 反応の結果は凄まじいものだったが……」

「1箱」
「永眠するわ」






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