短編U

□カラーズインポート
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「それのどこが“ちょっと”だ! それに“まだ”ってなんだ! 断言しろ!」


 滅多に怒鳴らない――それこそ、騎馬王丸がちんたら天宮の征圧に取り組んでいるときでさえ
静かに怒っていたガーベラが、何故かデスサイズを前にすると枷を外して、
まるで人間を相手にするようにして怒号を上げる。

 しかし、デスサイズはそれを平然と受け流した。

「はぁ……プロフェッサーも意外に我侭なんですね」

 呆気を含んだ溜息を吐きながら、デスサイズはやれやれと肩を竦める。


 今まで共にいて、この変態仮面騎士をぶん殴りたいと思った時は度々あったが、
今回は撲殺したい気持ちになった。
むしろ、その体を解体してジェネラルの養分にしてやろうか。

 額に青筋を浮かばせながらガーベラはデスサイズの注意を自分に向けるようにして咳払いした。

「この装甲の色は溶鉱炉の色に合わせて塗装したものだ。これで満足か?」

 するとデスサイズはふむ、と軽く呟きながら顎に手をやり少し思案する素振りを見せた。

「……ピンクは【安らぎ】や【リラックス】、【幸福】を意味する色だそうです」

「だからどうした?」

「溶鉱炉に落ちたら、確かにある意味安らぎを得るでしょう。
しかし、その色と似た色の装甲を持つあなたを見て安らげませんし、幸福感も味わえません」

「似合わないと正直に言え。誰もそんな嫌味百連発聞きたくもないわ」

「まだ二言しか言ってません。残り98言葉、お望みとあれば言ってさしあげましょうか?」

「謹んで断る。誰が好き好んで聞くか」

「いえ、てっきりプロフェッサーはそういう趣味をお持ちかと」

「どういう趣味だ」

 恐れることなく平然と末恐ろしいことを口走るデスサイズに
栄誉をくれてやりたいと思ったことは一度や二度ではない。
が、今回は栄誉どころか本気で溶鉱炉に突き落としたくなった。

「で、どうです? この際、思い切ってイメチェンしてみては?」

「最初からそれが目的で話を振っただろ、お前」

「いえいえ、そんな恐れ多いことしませんよ」

(お前の方が恐ろしいわ)


 コレの伴侶となる女がいようものなら、それこそコレの苛めを平然で受け流すか、
耐え抜かなくてならない根性を持ち合わさねば生き残れないだろう。
生半可な女では絶対に挫折する。

「やはり、中身も黒なんですから、装甲も黒にしたらどうです?」

「断る。というより、お前に言われる筋合いはない」

「おやおや、なんともつれないお言葉ですねェ。
ちなみに黒は【コンプレックス】、【葛藤】、【反発】、【悲しみ】などの意味を含んでいるようですよ」


 悲しみ――その言葉がガーベラの脳裏を執拗に繰り返される。

 未来から過去に時間移動して何もない絶望の闇に放り出され、長い時を放浪していた。
ジェネラルから事故の真相を聞かされた瞬間、その胸を満たしていたのはなんとも言い難い悲しみだった。

「なんとも、私に合っている色だな……」

 呟き、自嘲気味に笑ってみせる。

 デスサイズはその呟きを聞こえていながらもあえて聞こえないふりを装い、ゴホンと咳払いする。

「そういえばあなたの役職は幹部以外に最高技術長官でしたね。
それ相応の位の高さにいるなら、紫にしておきますか?」




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