短編V

□戦乱の掟
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「討つとは言って無い。俺はアイツを止めると言っただけだ。
だから、アイツを殺す気は毛頭無い」

 扇子をパチンと閉じ、おにぎりに手をつける。


「辛くは、ないんですか?」

 その質問に、師派王丸は今まさに口に入れようとしていたおにぎりを、その一歩手前で止めた。
シュウトの傍らに座り込んだ爆熱丸の視線が、
貫くようにして覇王丸を凝視しているのが気配で分かる。


 覇王丸は、すっかり大きくなった爆熱丸を見ると、ふっと小さく笑った。

「そういうお前は孔雀丸と戦って、どう思ったんだ?」

「辛かった、です……」
 膝の上に置いた両手を握り締め、ぐっと当時のことを思い出すように言葉を搾り出す爆熱丸。


「俺はあの時ほど、師匠から賜った『五聖剣』が憎いと思ったことはありませんでした。
孔雀丸は幼い頃から、師匠から『五聖剣』を賜ることを夢見て、
俺より厳しい修行を積み重ねてきました。
なのに、その『五聖剣』を俺が賜ったことで、孔雀丸は豹変しました……!
そして、ついにはダークフアクシズ――騎馬王丸の軍門に下り、俺と決闘し……、
武者として立派な最期を遂げました……ッ」


 兄弟のように育ててしまったのが裏目に出たか。

 弟子の中でも一番に涙もろかった爆熱丸が、孔雀丸の最期を前にしても一滴の涙を零さず、
見届けたという。
相当辛かったのだろう。


 覇王丸は腕を伸ばして爆熱丸の頭を撫でた。

「すまなかったな。俺がもう少ししっかりしていれば、
お前がこんな悲しい思いをせずに済んだのに……」


 常に飄然と構えていた表情に悲愴を滲ませて言うと、
爆熱丸は慌しい口調で「いいえ!」と首を振る。

「師匠には、むしろ感謝しています!
俺は不器用で戦しか知りませんが、シュウトやキャプテン、
それにゼロ、姫などと出会えて嬉しかったです。
俺を拾って、今まで育ててくれた師匠に恩返しすることが俺と孔雀丸の誓いでしたから。
孔雀丸は、もういませんけど……」

「ならお前は孔雀丸の文まで生きてやってくれ。
俺もそろそろ老年に入る頃合だ。到底アイツの分まで生きられんよ」

「師匠が殿のようによぼよぼのご老体になった際は、俺が将破丸様と共に介護してあげます」

「俺が死んだときは、せめて笑って見届けてくれ」

「…………………………………、
―――心得ておきます」


 返答に時間がかかったということは、恐らく存分に泣くか、真顔で見送るつもりなりだろう。
それでも構わないか、と微笑みながら覇王丸はシュウトを背負って櫓から下りた。


 荒れた地に足が着くと、覇王丸は再び空を仰いだ。
短い黄昏は次第に終わりを告げる。
入れ替わりに、戦の終止符を打つ戦いが今幕を開けようとしていた。


「陽騎……、すまんな。お前が言っていた約束、守りそうにないわ。
今夜、俺か騎馬王、どっちかお前の元に行くかもしれないけど、その時は笑って許してくれな」

 星が除く空の上にいる幼馴染の妻に向かって告げると、
覇王丸はガンパンツァーの上で悠々と座っている武里天丸に歩み寄った。





− 終 −







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