短編V

□戦乱の掟
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 覇王丸――天宮(アーク)に住むものならば、刀の名匠として名が上がる程の力を持つ者。
今は相当年を重ねて、中年期中ごろだと思われるが、それでも若い頃より少し力が落ちたぐらいだ。
彼1人の存在の有無で、戦力は大きく変わる。
恐らく騎馬王衆が束になっても、数分あれば簡単に片付けてしまうだろう。


「覇王め……遂に俺の覇道を邪魔しにきよったか……!」

 何よりも天宮(アーク)のことを第一に考えていた男だ。
いずれは来るだろうとは思っていたが、よもやこんな時期に来ようとは思わなかった。


「アイツは何処までも、空気の悪いところで現れる……!」

 互いにまだ若かった頃に、騎馬王丸は陽騎という、うら若き美しい姫に好意を抱いていたときがあった。
覇王丸が仕組んだ言動以外で行動を起こすと必ずといって良いほど、
彼はいい雰囲気のときに現れる。
天然なのか、わざとなのか――。


 どちらにしろ、山奥に道場を設けてからは、そこから一歩も外に出ることがなかった覇王丸が動き出したのだ。
これから先は今までのように単純にはいかないだろう。
裏の裏、更に裏をかかねば覇王丸は倒せない。

 騎馬王丸はふと懐から「御守」という刺繍が施されたお守りを取り出した。
紐を解き、中に入っていたものを取り出す。
コロンと掌に、騎馬の家紋が刻まれた平たい硝子玉が転がる。


 覇王丸は雨宮から離れ、隣国に出ようと言っていた際、彼が騎馬王丸に渡した物だ。
硝子製だからだろうか。
これだけは想い出のように色褪せることなく、鮮やかな色合いを保っている。


「これが戦乱……この世界の掟だ」

 昔は良かった、とはよく言うが、騎馬王丸は今までそんな事など一度たりとも思わなかった。
残酷な現実を受け入れる者が真に強いとそう考えていたから。
故に、いくら幼馴染が相手であろうと、自分の野望に立ち塞がるのならば容赦はしない。


「お前の太刀筋、未だ鈍っていなければいいがな」

 彼から貰った硝子玉を御守りの中に入れ、しかし握りつぶすことなく、
天守閣から見える武里天丸の本陣を見据えた。
その表情は何処か愉しげで、歓喜きわまりないものを帯びていた。



+ + + + +




 青かった空が赤味を帯びてくる。
次第に藍色に変わっていく空を見上げながら、
覇王丸はいつの間にか眠ってしまったシュウトの頭を自分の膝に乗せ、
柔らかい毛に覆われた頭を撫でていく。
なかなか下りてこない2人を心配で、
櫓に登ってきた爆熱丸に覇王丸は口元に人差し指を当てて静かにするよう合図する。

 頷くことで承諾した爆熱丸はそっとシュウトの体に薄い布団を被せた。


「シュウトと、どんな話をしていたんですか?」
「天宮(アーク)のことや、騎馬王のことをな」

「師匠は騎馬王丸と知り合いのようですが……」
「幼馴染だったんだよ。お前や孔雀丸と同じな」
「なっ……それでよく、騎馬王丸を討つと言いましたね」



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