短編U
□勝負の最果て
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「王が、優しい方だからですよ」
「なに?」
ディードにしても優しい声音で返された言葉に、騎馬王丸は虚を突かれた表情を浮かべて後ろを振り返った。
「知っている通り、リリの父であるラクロア王は人情に厚く、海よりも心が広い方ですよ。
だから、一抹の希望に縋り、それに賭けたかったのでしょう」
結果、ラクロアはダークアクシズに敗北した。それでも国王は賭けることをやめなかった。
ゼロによって救われたラクロアで、彼は反逆者である彼らをあえて生かしたのだ。
その分、強制労働を強いられることになったが。
「こんな所にいましたか、ディード」
不意にかけられた声に応じて、ディードならず騎馬王丸までもが声が発せられた方角へと視線を滑らせる。
「ロック――と、バトールにナタクか」
「おまけみたいに言うな」
「実際おまけのようなものだろう」
「なにをっ!」
騎馬王丸と接していたときとは違い、ディードが仲間に向ける口調には
敬意など含まれていないほどの軽さと飄然たる態度だった。
否、敬語になったところで、そこに敬意など最初から含まれていないことは分かっている。
彼が唯一敬意を向けるのは後にも先にもリリジマーナただ1人だろう。
「よしなさい、ナタク」
今にも殴りかからんとするナタクを、隊長であるロックが片手を上げて制した。
くっ、、と毒づいたナタクとディードを睨みつけたまま、しかしロックの指示通り、
手を上げることはなかった。
ディードが勝ち誇ったような笑みを浮かべると、ナタクの額に青筋が浮かぶ。
「それよりディード、今なら訓練場で面白いものが見られますよ?」
「面白いもの?」
ディードが鸚鵡返しに聞き返すと、ロックは含み笑いをして、コクリと一度だけ頷く。
「ノルシアとトールギスの一騎打ちです」
+ + + + +
いつの間に観客の数が増える中で、しかしノルシアとトールギスは一騎打ちをやめなかった。
舞うように剣を滑らせ、軽やかな身のこなしで相手の攻撃を防御・回避する。
俊足の肩書きを与えられたノルシアの素早い攻撃の数々を、
トールギスは得意な風属性の魔法で弾き、受け流していく。
その都度、感嘆の声が上がるが、彼らはそれをあえて聞き流した。