「…え、」
やってしまった。もう一度鞄の中を探すがやはりない。どうやら筆箱を忘れてしまったようだ。普通なら隣の子に「筆箱忘れたからシャーペンと消しゴム貸して!」なんて言うのだが、そんなの無理だ。だってあたしの隣は…。
「どうかしたのか?」
「いやいや何もありません!!!」
桂くんなのだから。あたしは何事にも真面目で優しい桂くんが好き。物を借りるだなんて‥、恥ずかしすぎて死ねると思う(意識しすぎ、てわかってるけどさあ‥)
桂くんには適当にごまかして顔の熱さを冷ます。これ以上喋ったら頭がパンクする。少ししたらチャイムが鳴って授業が始まる。コンコンと黒板に先生が書いていけば皆がノートに写す。筆箱を忘れたあたしはただボー、と空を眺めていた。
コツッ
何か音がしたと思い机を見ると、ノートの切れ端をグチャグチャに丸めた紙。あたしにだよね、なんて思いながらその紙を見る。バッと桂くんを見て頷けば、そっとシャーペンと消しゴムを貸してくれた。
"筆箱忘れたのか?"
綺麗な字でたった一言書かれた手紙。桂くんが授業中に手紙を書くなんて意外だった。でも、すごく嬉しかった。借りたシャーペンでその日一日、真剣に授業を受けた。
「桂く、ん。シャーペンと消しゴム、‥ありがと」
「ああ。」
そう言いシャーペンと消しゴムを返す。これ以上一緒にいると顔が赤いのがバレると思い、「じゃ、またあし、た」と言い、帰ろうとしたのに。気付けば桂くんに腕を掴まれていた。
「桂くん‥?」
「今度から困ったことがあれば、俺に言え。」
そんなこと
言わないでよ!
(もっと好きになっちゃうじゃん!)
「な、なんで‥?」
「そんなのもわからないから筆箱を忘れたりするんだ」
「えぇっ!?」
★−−−−−−−−−−
鈍感ヒロインと桂さん
でした(´ω`)