書
□拍手文
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花見
冬の寒さも遠退いて、日毎ぽかぽかとした陽気に包まれていく、そんな小春日和。
「あ、旦那」
大した仕事もなく、暇を持て余すようにぶらぶらと通りを歩いていたら、久し振りに沖田くんに会った。
「あっれー、久し振りじゃない?」
「そうですねぃ」
声にも表情にも出さないけど、数日振り所ではない再会に心が浮き足立つ。
そんな俺の心も知らず、沖田くんはいつも通りの様子で歩み寄ってきた。
黒い服に身を包まれている…と言う事は仕事中。
多串くんも近くにいるのかと周りに視線を配ると、沖田くんからあっさり否定の答えが返ってきた。
沖田くんに会えて、その上多串くんもいないなんて。
今日は何てラッキー。
「丁度旦那の顔見に行こうかと思ってた所だったんです」
そう言いながら、持っていた包みを見せる。
「それはもしかして?」
「イチゴ大福でさぁ」
悪戯っ子のようなくりくりの瞳と口元に浮かべられた笑みに、つられて笑ってしまった。
言外にサボりだと言っているのだ。
「ね、花見でも行かない?」
「花見って…もう8割がた葉桜ですぜ?」
包みを取り上げて歩き出すと、俺の提案に首を傾げながらも付いて来る沖田くん。
やっぱり可愛いなぁ、この子。
「いーのいーの。花見客ももういなくなったからのんびり出来るし、足りない分の花は沖田くんが代わりになってくれるでしょ?」
ニヤリと笑いながら沖田くんの手を引くと、驚いたように瞳を開いて、それからすぐに俯いてしまった。
「旦那はとんだ色呆けでさぁ…」
サラサラと揺れる髪の隙間から見える耳が仄かに赤く染まっていて、まるで桃色の花のようだと、クサい詩人さながらに思う。
例え満開の桜でも引き立て役にしかなれない。
そんな風にまで思えてしまうくらい俺は君に溺れてるなんて、君は知らないかもしれないけど
この久し振りの逢瀬を、2人だけで。
END
自分的に糖分多め。
銀沖好きです。銀さん別人ですみません。
20080415