書
□今日だけ特別
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両手に出来立ての暖かいモノを抱えて走る小さな姿。
「近藤さん!」
ボロだけど暖かさと優しさの溢れる道場。
その雰囲気を作り出している源たる近藤を見つけると、履物を脱ぐのももどかし気に放り出して駆け寄った。
「おぉ、どうした総悟」
「これっ!姉上と作ったんでさぁ!!」
得意満面に腕の中に抱えてた包みを広げると、沢山の柏餅が覗く。
「そう言えば今日は端午の節句だったなぁ」
大きな手にくしゃくしゃと頭を撫でられて、総悟の胸に嬉しさが増す。
近藤の優しい手で撫でられるのは大好きだった。
「近藤さんにもわけてあげまさぁ。あとジジィにも」
ガラッ
引き戸が開かれる音に、にこやかな声が止まる。
戸口には土方の姿。
「丁度いい。トシ、茶にないか?」
「いや、俺は甘いのは…」
「そう言わず1つ食べてみろ。せっかく総悟が」
「近藤さん!」
断りを入れる土方を尚も誘おうとする近藤の間に無理矢理割って入り、言葉を制する。
「土方さんなんて放っておいてあっちで2人で食ぃやしょう!」
近藤の着物の袖を引張り、出ていく総悟の妙に明るい声に土方は微妙な引っ掛かりを覚えたが、近藤を独り占めしようと画策するのはいつもの事だと思い直した。
態とらしいあの声も、その為だと思えば妙に納得もいく。