書
□嫌い
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「そーちゃんは十四郎さんが本当に大好きなのね」
思い切りケンカして、コブの出来た頭を姉上に見てもらいながらアイツの悪口を言いまくっていたら、ニコニコしながら姉上に言われた。
言われた瞬間、意味がわからなくて瞳を思いきりかっ開いた。
頭が真っ白になって、それとは逆に足元が真っ暗になった。
ずっとアイツにだけは負けたくなかった。
アイツに負けるのは許せなかった。
だって、アイツは姉上を幸せになんて出来ないから。
幸せに出来ないくせに、姉上のそばにいるんだ。
そんなの許せない。
だから俺はアイツが嫌いだ。
嫌いなんだ。
「またこんな所にいんのか?」
神社の裏の、ちょっと行った所にある俺だけの隠れ家。
樹齢何年だか忘れたけど大きな木があって、その木の洞に俺は小さくなって座っていた。
近藤さんにも教えたことのない場所なのに、どうしてこいつがここを知ってるんだ?
「うるせぇ」
膝を抱えて、後ろを振り向かずに言い捨てる。
お前の顔なんて見たくない。
「何も言わないで出てきたんだろ?姉ちゃんが心配してたぞ」
「……」
心配そうな姉上の様子がすぐに想像出来て胸が痛んだけど、こいつに言われて動くのが嫌で、そのまま無視を続ける。
姉上がこいつを頼った事も、少なからずショックの一因だった。
もしかしたら近藤さんにも、道場の皆にも声を掛けてたのかも知れないけど。
姉上と近藤さんの笑顔が頭の中をぐるぐる回って、そのぐるぐるの中に何故かこいつの仏頂面が割り込んできて。
目の前がじわじわと滲んでいく。
今まで穏やかで幸せだった心に、コイツが入ってくるだけで波立って荒らされる。
自分の心が制御できない。
気持ち悪い。