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□月夜の剣舞
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 月明かりの下で佇む、二つの影。片方は長身、もう片方は小柄な人の影。


 彼らは互いに向き合い、その腰にゆっくりと手を掛けた。引き抜かれるのは細長い得物。それを静かに構える。


 一時の沈黙。一瞬とも数分とも思える時。二人は微動だにしない。




 ――刹那。




 何が合図だったのか。二人は同時に動いた。声をあげ、互いに斬りかかる。


 長身の影が上から振り落とし、小柄な影がそれを受け止め弾く。続けざまに横に払うが難なくかわされた。そしてまた打ち合い、弾き、かわす。それは一見洗練された舞いのようにも見えるが、少しでも気を抜けば殺されるような、そんな雰囲気が漂っていた。


 月明かりに刃が白銀に煌めく。小柄な影は後ろに跳び、距離をとった。頬を汗が伝い、肩で息をしている。


 しかし相手は休む隙さえ与えてくれない。走って一気に距離を詰め、刃を突き出した。小柄な影は紙一重でそれをかわす。その長髪の先が何本かはらりと落ちた。



「―――…ッ!!」



 小柄な影は素早く身を屈め、そのまま相手の懐に飛込んだ。耳を塞ぎたくなるような刃を合わせる音が響く。押し合いの力比べ。小柄な影のこめかみに汗が流れる。しかし、負けじと渾身の力を込めて相手の刃を弾き、そして――…




 ………決着が、着いた。



 突き付けた刃。その刃先が向く喉は細い。小柄な影は、鋭い目つきで相手を見上げていた。耳に響く己の心音が徐々に速度を落としてゆくのを聞きながら呼吸を整える。


 対してあまり汗をかいていない長身の影は、流れるような動作で得物を鞘に納めるとやわらかく笑んだ。



「腕を上げたな」


「………そう、かな」



 外見相応の低い声に、相手は苦笑する。そして目線を下げ、まだまだだよ、とかすれた声で呟いた。



「私はまだ、弱いから」


「十分さ。お前は強い」



 相手の励ましにも、小柄な影は首を振った。



「ううん、弱いよ。強くならなきゃ。もっと、もっと……」



 あなたを守れるぐらいに、と囁く。長身の影は苦笑した。



「そうしたら、俺の仕事が減るだろうが」


「………そうだね」



 小柄な影は微笑む。そして相手の手を借り立ち上がると獲物をしまい、共に何処かへ歩き出した。




 月明かりの下、寄り添い歩くは二人の影………









(ずっとあなたに守られてばかりだった)(だから今度は私があなたを守りたいの)




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