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□ある土曜日の会話
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『3年B組 金八先生〜』



 そんなバカに明るい声で目が覚めた。まだ夢と現をさ迷いながらも手を動かし、音源を探る。見つけた。ブルーのケータイ。



ピッ



「……どちら様ですか。つかこっちは今機嫌がすこぶる悪いので今すぐ土下座して地獄に堕ちやがれ」



 寝起きにも関わらずここまで喋れるのは我ながら凄いもんだ。



『あ、起こしちゃった? その意味不明な毒舌っぽいのは間違いなく寝起きだね?』



 聞き慣れた高い声。そうだ、この声は一人しかいない。



「わかってるなら今すぐ謝罪の意味を込めてノーバンジーしてくるか一ぺん回ってワンと鳴け。そして今すぐ切れ」


『"一ぺん回ってワンと鳴いた。"つかさぁ、明日ヒマ?』


「株でもうけてくれると約束してくれるならヒマだと言おう」


『私のテクを舐めちゃいかんよ。ヒマならさ、明日映画行こうよ』



 何の、と聞き返すと、彼女は何故か得意気に笑う。



『聞いて驚け、「ゆけっ、炎のチャレンジャー!」だっ!!』


「……誰が行くかそんなもん。ガキじゃあるまいし。弟と行ってこい」



 うざいから着るぞ、と少し怒りを含ませて言う。



『あ、まってまって、ウソウソ、嘘です。本当は…』



 慌てて彼女が告げたのは、有名な映画のタイトル。俺の好きなジャンルだ。

 うん、悪くない。



『ぎゅっとくるでしょ? こう、なんかぎゅっと』



 前言撤回。こいつはラブシーンだけが目当てらしい。



「お前のその一言で一気に行く気無くした」


『わーわーっ! ごめんごめん!! お願いだから行こ、ね?』



 謝罪の言葉を適当に聞き流しながら俺はカレンダーに目をやった。明日は日曜。特に予定ナシ。


 はぁ、と一つため息をつく。



「明日10時いつもの場所で。マックのポテト奢りで」

『…え、マジ?やったー!!』



 とたんに底抜けに明るい声が耳を突いた。痛い。


 適当に聞き流し、最後に毒舌で通話を切る。寝転がっていた体勢からようやく体を起こした。


 …さて、明日は何を着て行こうか。







(そもそも、あいつの誘いを断るつもりなんかない)



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