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□弥生の風は想いを拐う
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「これで高校生活も終わりかぁ」



 突然、隣に座っていた彼が言った。思わず横を見ると、行儀悪く机の上に座っている彼が視界に入る。


 校内の図書館。大好きなこの場所も、もうすぐお別れ。



「……そうだね」


「…そんだけ?」


「他に何かあるの?」


「いや……」



 そっけない返答に彼は苦笑する。どうせ可愛くねぇとか心の内で悪態でもついてるんだろう。私だって本当はこのひねくれた性格をどうにかしたい。


 彼と離れて寂しいのに、悲しいのに、そんな台詞はおろか涙さえも出ないなんて。



「この図書館にも、あんまり来れなくなるな。馬鹿みてぇに騒いでた奴らとも話せなくなるし……んで、飽きずに睨みあってたどっかのバカともあんまり会えなくなる」


「誰がバカよ、誰が。こっちはやっと誰かさんのアホ顔を拝まずに済んで清々するわ。本当、迷惑だったのよね。チビだのバカ女だの、煩かった」



 ……違う。私はこんなことが言いたいんじゃない。こんなことが伝えたいんじゃない。



「これでようやくすっきりするわ。よかった、あんたと離れられて」



 あぁ、この性格を授けた神を呪いたい!


 すると彼は私を見てまた苦笑した。思わずむっとして反論しようと口を開きかける。



「なによ、どうせ私は「そんな顔で言われても、全然意味ねぇよ。つか、寧ろ逆効果なんだけど」


「……は?」



 意味がわからず首を傾げると、彼はまた笑って私に手を伸ばした。



「そんな泣きそうな顔して」


「っはな、」



 抵抗も無意味に等しく、目の前が暗くなる。



「まるで離れるのが嫌だって言ってるみたいだけど。……自意識過剰じゃないなら、自惚れるよ? 俺」



 頭上から降ってくる、優しい声。


 ――大好きな、貴方の、声。



「っ勝手にやってろ……」



 思わず乱暴な言葉を返す。


 堪えきれなかった想いが溢れるのを見られたくなかったから、ただ彼の胸のあたりの服を握り締めていた。










(叶うなら、どうか時間を戻して下さい)(もう少し早く、好きと伝えたかった)



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